ジュニ、若林で2ゴール
2-0は危険なスコア――。
誰もが一度は聞いたことのあるフレーズだろう。サッカーにおいて2-0は安全圏ではない。油断すれば追いつかれ、ひっくり返されるから、気を緩めてはいけない。そんな“格言”だ。
5月13日、ニッパツ三ツ沢球技場で、SC相模原はサッカーの怖さを思い知らされることになった。
2週連続の“神奈川ダービー”となったJ3リーグ第10節。SC相模原はY.S.C.C.横浜の本拠地に乗り込んだ。
1週間前の前哨戦、天皇杯神奈川県予選では2-0で勝った。クラブ史上初めて、自力での天皇杯出場決定を果たした。記者会見で、戸田和幸監督は次の試合も勝つことを、そのための準備をすることを誓った。
「次も今日と同じように勝つためだけに、とにかく、ひたすら練習するので、次の試合を楽しみにしていただいて、また同じ場所、同じ相手ですけど、今日以上の熱量で相手に向かっていきます」
その言葉通り、前半は今シーズンでベストと言っていい内容だった。
先制点は25分、左サイドから仕掛けた若林龍が中に切り返して右足でクロスを入れる。背中をとる動きでマークを外していた栗原イブラヒムジュニアが、ワンタッチでゴールネットを揺らした
「ジュニがイメージ通りのところに動いてくれて、自分はそこにパスを合わせるだけだった」と若林がいえば、「ああいう動きをしてクロスを待ち構えるという意識できていて、それが結果につながったのはすごいうれしい」と栗原は胸を張った。
39分には2点目が生まれる。吉武莉央が鮮やかなドリブルで侵入すると佐相壱明、栗原とつないで、右の大外にいた伊藤恵亮へ。伊藤がクロスを入れると、ファーサイドで若林が豪快に叩き込んだ。
カターレ富山戦に続き、2試合連続で右サイドバックとして先発出場した伊藤が初アシスト、そして若林にとってはJリーグ初ゴールとなった。開幕からしばらくはメンバー外になることが多かった大卒ルーキーが結果を出した。
SC相模原はリーグ戦10試合目にして、初めて2点差をつけて前半を折り返した。誰もが、今日は勝てると思った。しかし――。
別のゲームになった後半
ハーフタイム、戸田監督はロッカールームで選手たちにメッセージを送った。
「ここから別の試合になる。前半のことは忘れろ」
2点差は決して油断できる状況ではない。だから、何度も強調した。
「もう1回、相手に向かってプレーしよう」
だが、後半の主導権を握ったのはY.S.C.C.横浜だった。ハーフタイムで2枚替え、とりわけFWピーダーセン世穏の投入はゴールを狙いに行くというメッセージが込められたものだった。
星川敬監督は前半を踏まえて、戦術的な修正も行っていた。ゲームメーカーの中里崇宏のプレーエリアをY.S.C.C.横浜の左サイド、SC相模原の右サイドに寄せてきた。
右サイドハーフの佐相は相手が変えてきたことに気づきながら、ピッチ上で素早く修正ができなかったことを悔やんだ。
「僕のサイド(右サイド)でいうと、相手の人数が増えた印象があったので、自分が行っていいのか、行かない方がいいのか……。(中里選手は)1発もありますし、つなぐのも上手だったので、寄せづらい環境になってしまったので、もっと早く気づいて何か変えられればよかったです」
51分、ペナルティーエリア付近からのフリーキックを中里に沈められて1点差に。さらに73分、右サイドを崩されてクロスから決められ、2-2の同点にされた。
「相手はクロスから得点を狙うのはわかっていたので、大外の選手をしっかり戻さなければいけませんでした。自分がもっと声をかけて絞らせなければいけなかったと思います」(加藤大育)
ボール支配率: 64%/36%、シュート数:18本/8本というデータからは、Y.S.C.C.横浜がボールを握って、何度もチャンスを作ったことが浮かび上がる。戸田監督は78分に3枚替えを行ったが、試合の流れを劇的に変えるには至らなかった。
2-2のままタイムアップ。緑で埋まったゴール裏、メインスタンドのアウェイ側には、どんよりとした空気が漂った。カターレ富山戦と同じように先制しながら、またしても、勝ち切れなかった。
なぜ2点差を追いつかれたか?
試合後の恒例になっているピッチでの円陣では戸田監督が選手たちに語りかけた。「俺自身にも矢印を向ける」と前置きをした上で、戸田監督は選手たちにプレーする姿勢を問いかけた。
「本当に相手に向かっていったのか、もう1点を取るつもりでゲームを始められたのか。自分に聞いてみてくれ」
相手の変化にどう対応するべきだったか、どこで交代カードを切るべきだったか。戦術面については戸田監督をはじめとしたコーチングスタッフが検証を重ねる必要があるだろう。
2点差を守ろうとする気持ちが自然と強くなり、後ろに残り、前に出ていこうとしなかった。明らかに流れが悪くなっても、空気を変えようとスイッチを入れる選手もいなかった。勇敢さと大胆さが、明らかに欠けていた。
試合前に997だったSC相模原のクラブ創設からのゴール数は、この試合を終えて999。1000ゴールは次の試合に持ち越しとなった。
ただ、次の試合で見たいのはメモリアル弾だけではない。最後まで相手に向かう姿を、プレーし続ける姿を見せてほしい。
志高く、勇敢に、大胆に――。
戸田監督が掲げた、この言葉をピッチで体現できた時、歓喜の瞬間は訪れる。
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【5/13YSCC戦】試合結果・監督・選手コメント
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【5/28FC琉球戦】ホームゲーム情報
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■クレジット
北健一郎(SC相模原オフィシャルライター)
※KITAKEN MATCHREPORT は不定期連載予定です※