SC相模原

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12-06-2020

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KITAKEN MATCHREPORT Vol.36 『6ポイントマッチ』

KITAKEN MATCHREPORT Vol.36
vs ガイナーレ鳥取
『6ポイントマッチ』


SC相模原にとって初めてのJ2昇格争い。後半戦に入ってから破竹の勢いで勝利を重ねてきたチームはもがいていた。負けないけど、勝てない――。第24節のFC岐阜戦から実に5試合連続でドロー。勝ち点を1ずつしか積み上げられなかった。

第29節、アウェイの鹿児島ユナイテッドFC戦もまた、引き分けで終わると思われた。だが、大卒ルーキーが大仕事をやってのけた。0-0で迎えた後半のアディショナルタイム、カウンターから清原翔平、星広太とつながってクロスが折り返された。

そこに、鹿沼がいた。6月末から始まったJ3リーグの全試合にフルタイム出場していた、鹿沼がいた。「あれができなければ、僕の選手としての価値は一つ消えてしまう」。ペナルティーエリアまで侵入し、右足を振り抜いた。ゴールネットが揺れた。92分15秒だった。

サッカーでは一つのゴールがチームを変えることがある。鹿児島戦を勝利したことでSC相模原は初めて単独2位に立った。理論的には、残りの試合を全て勝てばJ2昇格圏内でフィニッシュできる。

キャプテンの富澤清太郎に浮かれる様子は全くなかった。「(2位にいるのは)正直に言えばどうでもいい」。相手がどうとかではない。今はただ、自分たちが何をできるかにフォーカスする。そんなメッセージだった。

第30節のガイナーレ鳥取戦。勝ち点50の2位のSC相模原と、勝ち点47で6位の鳥取という、勝敗によって順位が入れ替わる、極めて重要な一戦だった。17時キックオフのスタジアムは寒さとあいまって、独特の緊張感に包まれていた。

ただ、この大一番でSC相模原の選手たちは今シーズンで一番と言ってもいい入りを見せた。三浦文丈監督が主導権を握れた一つの要因を明かす。

「風上だったことは大きいです。今回は先手必勝で行こうということでコイントスで勝ったら風上をとるということを(キャプテンの)カンペー(富澤)と話していて、しっかりと勝ってくれました(笑)」

三浦監督には苦い経験があった。第26節のアウェイの福島ユナイテッドFC戦(0-0)で後半に勝負をかけようと前半はあえて風下となるピッチを選んだ。ただ、前半に強く吹いていた風が後半になってピタッと止んでしまい、目論見が外れた。

風上に立ったSC相模原は立ち上がりからゴールに向かって圧をかけつづけた。DFラインの背後を和田昌士が何度も狙って走り込み、相手ボールになったらすぐさまプレスをかけて奪い返す、あるいはセットプレーやスローインをとって2次攻撃につなげる。

だが、何度も訪れたチャンスを決めることができない。

14分に梅井大輝のポストプレーからホムロが打ったシュートはGKに止められ、17分に星のクロスから和田が頭で飛び込んだヘディングも枠をとらえられない。31分にはホムロがゴール前で絶好のパスを受けたがミートしきれず。

スタジアムに漂いつつあった、重苦しい雰囲気が変わったのは36分だ。右サイドから才藤龍治が上げたクロスを高い打点で和田がとらえる。本人曰く「初めて」というヘディングでのゴールがSC相模原にとって貴重な先制点となった。

「チャンスの回数や、顔を出す回数は多かったので、最後のフィニッシュのところが課題でした。本人も落ち込むことがありましたが、クヨクヨしてもしょうがないよと。献身的に走っていたのがゴールにつながったと思います」

横浜F・マリノスの下部組織時代から“マーシー”こと和田を見てきた三浦監督は、この新戦力に大きな期待をかけてきた。23歳の若さで副キャプテンに指名したのも、本人の自覚をうながすためだった。

ただ、和田は苦しんでいた。ほとんどの試合に出場しながら2ゴールは前線の選手としては物足りない数字だ。後半戦になってからはサブスタートも増えていた。大事な試合で目に見える結果を出したのは、本人にとっても、チームにとっても大きかった。

1-0のリードで折り返した後半は風下に立つ。絶対に勝利が欲しい鳥取がゴールに向かってくるのは間違いない。相手の攻撃を耐えながら、どうやって追加点を挙げるか。それが最大のミッションとなった。

54分、SC相模原は同点に追いつかれてしまう。それでも三浦監督にネガティブな感情は全くなかったという。

「ここに来て選手たちは自信を持ち始めて、良い顔をしていたので、途中からは行けるなと確信していました」

歓喜をもたらしたのは“意外な男”だった。77分、ホムロが中央から左斜めにドリブルで運んで中へ折り返す。これを才藤が落としたところに走り込んだのは、梅鉢貴秀だった。右足のインサイドで丁寧に打った。

ゴールを決めた梅鉢を中心に歓喜の輪ができた。チームナンバーワンの“いじられキャラ”。1992年生まれ選手によるLINEグループには「うるさいから」と入れてもらえていない。そんな男が決めたことが、勝利に向かうチームを加速させた。

2分後。ゴールの起点となったホムロが今度は自分で決める。相手センターバック同士のパス交換を奪い取ると、ペナルティエリア内で中に切り返してカーブシュートで流し込んだ。献身的なディフェンスと、テクニカルな技術、ホムロらしさが詰まったゴールだった。

「チームとして自信が深まっていますし、選手もチームのために全力を出せています。それをラストまで続けることで目標であるJ2昇格につながると思います」(ホムロ)

試合終盤に1点を返されて、肝を冷やしたものの3-2で逃げ切った。勝ち点53、SC相模原はJ2昇格へ向けて、また一つ階段を上った。

残りは4試合、360分。

まだまだ困難が待ち受けているだろう。それでも、行ける。このチームだったら、やってくれる。そんな風に思わせてもらえる勝利だった。



取材・文 北健一郎(SC相模原オフィシャルライター)