
2016年9月25日13:00KICK OFF@相模原ギオンスタジアム
SC相模原 1−3 FC琉球
[得点]
相模原:10分岩渕良太
琉 球:42分富樫佑太、89分田中恵太、90+2分朴利基
|ワクワクした前半とヒヤヒヤした後半
J3リーグ第23節のFC琉球戦を、簡潔に言い表せば、「ワクワクした前半」と「ヒヤヒヤした後半」と表現することができるだろう。そして、結果的にSC相模原は、その「ヒヤヒヤした後半」に2失点し、1−3で敗戦した。
就任から3試合を終え、未だ勝ち星をつかめずにいる安永聡太郎監督は、「ゲームを動かすというところを、僕が誇示しすぎたがために敗れてしまったゲームだったのかなと思います」と、試合について感想を漏らした。確かに展開だけを見れば、前半10分に岩渕良太のゴールにより先制しながら、前半42分に追いつかれた。後半に入るとさらに猛攻を受け、力負けしたチームは、後半44分とアディショナルタイムに失点を重ねて敗戦した。指揮官も「ガス欠」と表現したように70分を過ぎると、選手たちは明らかに運動量が落ち、ピンチに陥る回数が激増した。
ただ、それでも希望を抱かせるのは、試合後の選手たちから、指揮官が掲げる前への意識と同様、ポジティブな声が聞こえてきたことだ。特に前半は身を乗り出さんばかりの攻撃を見せた。4−4−2システムを用いる琉球に対して、4−1−3−2システムで臨んだSC相模原は、CBに定着しつつある坂井洋平と寺田洋介が並び、左SBには普光院誠が起用された。中盤は、アンカーに北原毅之が入り、2列目には石田雅俊、菊岡拓朗、深井正樹が並ぶ構成で、2トップには岩渕と井上平が先発した。
|チームの矢印が一致していた前半
では、前半は何が良かったのか。それはチームとして矢印の方向が合致していたことだ。プレスを掛ける向きもチームとして統一されていれば、攻撃を仕掛ける方向も一貫していた。
開始2分には、追い越した普光院が深井からのパスを受けてクロスを上げたように、SC相模原は同サイドで攻撃を完結させていた。指揮官からも「マコ(普光院)が後ろのほうが今日はパワーを出せる」と縦への推進力を評価されていた普光院は、何度も深井を追い越しては好機を演出した。
10分の先制点も同様である。左サイドでのスローインの流れから、普光院が中に送ると、走り込んだ井上が折り返したボールを岩渕が押し込んだものだった。19分には右サイドを石田がDFを引きずりながら強引に突破。グラウンダーのパスに岩渕が右足で合わせた。
23分もまた左サイドのカウンターからチャンスを作った。深井からのパスを追い越した普光院が受けると、折り返したクロスをこれまた岩渕が合わせた。25分に石田が迎えた決定機こそ逆サイドへ展開されたものだったが、右ならば右、左ならば左と同サイドでやり切る攻撃は中央に飛び込む2トップにとっては合わせやすかった。まさに矢印の方向性がチームとして統一されていたのである。岩渕が語る。
「先制点の場面だけでなくチャンスはありました。戦術的にもクロスが上がってくるタイミングが分かるので、前でプレーする自分としては合わせやすかったし、シュートチャンスも多かった。でも、欲を言えば、足下で崩してトラップしてシュートという形も作りたい。監督が求めることにみんなが応えようとするあまり、クロスばっかりになってしまっていたところもあった」
前節の栃木SC戦でゴールを挙げた井上も同サイドからの攻撃には手応えを感じていた。
「サイドチェンジしたり、切り返すことが増えると、前線の選手としては走り直したり、動き直さなきゃいけないからやり切ってくれたほうが合わせやすい。チームとしてもその方が崩しやすいとも思う。前半の途中まではバランスも良かったし、距離感も良かった。ただ、90分間ずっとこっちのペースで進むという試合はまずない。相手のペースになったとき、守備での立ち位置が曖昧だった。守備時は4−1−4−1の形になろうという話をしてはいたんですけど、体力的にも戻るのがきつくて、最後の最後に前から行こうとなったときにも意思統一ができずにバラバラになって失点してしまった」
|守備の矢印がバラバラになった後半
前半がワクワクした理由と、後半になりヒヤヒヤした原因は、まさに井上の言葉に集約されている。
42分にDFがラインコントロールを気にしていたスキに富樫佑太に決められ同点に追いつかれたように、後半になると、相手の圧力が増すようになる。SC相模原とは真逆で、琉球は右で作って大きく左に展開するなど、サイドチェンジを多用する攻撃に、選手たちは徐々に疲弊していく。また、後方でボールを回すことなく、ロングボールを入れる攻撃でも、再三、相手に跳ね返されることで体力を失っていった。69分に近藤祐介を投入したのも空中戦で確実に競り勝ち、起点を作るための交代だった。
劣勢の中でも64分には深井が、72分には石田が決定機を迎えたが、それも決められずにいると、最終的に後半だけで14本のシュートを放った琉球に屈することとなる。
89分に喫した決勝点は、まさに相手が狙っていた右サイドから左サイドに展開され、田中恵太に決められた失点だった。1−2にされたチームはさらにバランスを崩した結果、90+2分にはスローインの流れからダメ押しとなる3点目を奪われ1−3で敗戦した。
まさに劣勢に立たされた後半はチームとして守備の矢印が合致せず、前から行こうとする選手もいれば、ラインを下げようとしてしまう選手もいた。また、体力的にも苦しくなり、戻ることができず、指揮官が掲げる「前向きでの守備」を徹底することができなくなった。
井上は「90分、試合に出たら1点は決めたかった。このサッカーをやっていて、1点しか取れないのではダメですよね。守備のことも考えたら、最低2点は取ってあげないと。そこですよね、結局。得点できるチャンスもあったわけだし。先制のシーンのような場面をもっともっと作っていかないとですよね」と、攻めながらも1点に終わった攻撃陣の不甲斐なさを猛省した。確かに前後半含めて幾度も好機は作っていた。自分たちが主導権を握っているうちに、もう1点、2点と追加点が奪えていれば、結果は変わっていたはずだ。
もう一つは、前を意識したサッカーを貫く中で招いた試合終盤の「ガス欠」である。指揮官はこのスタイルを貫くとしているが、そこには選手たち自身の「判断力」も問われていると坂井洋平は力説した。
「相手にプレシャーを掛けられたら蹴っていいとは言われているけど、ずっと、そればかりをやっていたら、さすがに体力的には疲れる。でも、実際のところ、本当に相手のプレッシャーが掛かっているのかどうかも考えなければいけない。本当はつないでもいい場面で、蹴ってもいいって言われているから蹴ってしまっている場面もあるように思う。つなげるところはつなぐ、蹴るところは蹴る。それをうまく選手たちが判断していかないと。戦い方が幼稚でしたよね」
|今節出た課題の答えをどう導き出すのか
再び井上のコメントを引用しよう。
「これまで前半から相手を押し込んで、攻め込めた試合はなかった。それが増えていけばと思う」
確かに前へ、前へと行こうとする意欲的な攻撃は魅力的である。徐々にチームが安永監督が掲げるサッカーを体現できるようになっている中で、結果を出すには、追加点を決めることはもちろん、勝ち方も重要になってくる。
記者会見を終えた指揮官を呼び止めると、彼はこう信念を明かしてくれた。
「後ろの枚数を増やしてとか、1点取って守りを固めるようなサッカーはしたくない。選手に迷惑を掛けているところがあるのも分かっている。でも、どうせ倒れるにしても、倒れるときは前のめりで倒れたいですからね」
いかにしてSC相模原は貫くサッカーの方程式を解き、答えを出すのか。今のSC相模原は毎試合、一歩、一歩、その答えに近づいている。それだけに次のAC長野パルセイロ戦でも、この試合で出た課題の答え合わせができるはずだ。