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07-20-2023

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KITAKEN MATCHREPORT Vol.43 『緑の魂を見た夜』

大卒ルーキーの“ゴラッソ”

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この瞬間を、待っていた。

406日ぶりの、相模原ギオンスタジアムでの“ファミリア”。

「みんなから拍手をもらえて、みんなでファミリアを踊れて、本当に最高でした。本当、最高です」

はにかみながら語ったのはボランチの西山拓実だ。アウェイの奈良クラブに2点を先行されて迎えた54分、大卒ルーキーが決めたJリーグ初ゴールが、大逆転劇の口火を切った。

左サイドから橋本陸が入れたスローインを、前田泰良が相手に囲まれながらもなんとか残す。こぼれた先にいたのが西山だった。「相手の足が出てきたのはわかっていた」と左足で巧みにボールを浮かせると、右足で狙い澄ましたシュートを放った。

ゴールネットが、揺れた。スタジアムが、沸いた。何かが起こりそうな予感が、した。

およそ勝てるような試合展開ではなかった。前半終了間際と、後半の立ち上がり。失点したのは、サッカーのセオリーからすれば最悪の時間帯と言っていい。

0-2とされた時、スタジアムに「今日もダメなのか……」という空気が漂ったのは確かだ。なにしろ、開幕戦からここまで勝ったのは第2節の福島ユナイテッドFC戦の1試合のみ。3カ月以上も勝利から遠ざかっていたのだから。

悩み、苦しんだ先に

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「勝てないんじゃない、勝てていないだけだ」

戸田和幸監督は、結果が出ない間も選手たちを鼓舞し続けた。大卒ルーキーや、下部カテゴリーから個人昇格した選手が大半を占める新しいチームは、勝てない中で必死にもがき続けてきた。

ただ、チームを取り巻く空気は試合を重ねるごとに厳しいものになっていった。愛媛FCとの第15節に敗れると、ついに最下位になった。シーズンはまだ半分以上残っていたものの、明るい未来を描ける状況ではなかった。

アウェイでのFC大阪戦の敗戦後、藤沼拓夢は涙を流した。主力の1人としてピッチに立ちながら、チームを勝たせられない、サガミスタを喜ばせられない。悔しさ、歯痒さ、不甲斐なさ……たくさんの感情が溢れた。

「本当に死ぬ気で戦いますし、これだけ勝ててない中で最後まで声を出して応援してくれるサポーターのためにも、本当に勝利を目指したいです」

ストライカーは前を向いた。1週間後にはまた試合はやってくる。もしかしたら勝てないかもしれない。この先も、ずっと……。そんな不安があったとしても、最高の準備をすることしかない。

62分、同点弾を決めたのは、藤沼だった。

吉武莉央がDFラインの背後に通したスルーパスを、綿引康が浮き球で折り返す。ふわりとしたクロスを藤沼が頭で合わせた。

「我々らしいと思って、見ていました」

縦を意識する、背後をとる、ゴール前に入る――。戸田監督が就任以来こだわってきた、ずっと練習を重ねてきた、たくさん失敗を重ねてきたことが、ようやく結実したゴールだった。

「今日、勝てるな」

13試合ぶりのゴールを挙げたストライカーは、勝利への予感を肌で感じていた。

そこに、橋本陸がいた

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2-2になった後の79分、戸田監督は次のカードを切った。それは、もう1点とって勝つというメッセージだった。

「ララララ〜つばさ〜♪オ〜つばさ〜♪」。

自分の名前を呼ぶチャントを聞きながら、安藤翼はピッチに入った。

「入る時、歓声は聞こえていましたし、それが自分を奮い立たせてくれるなによりの大きな原動力となっています」

14番がアグレッシブなプレスで猛然と襲いかかり、味方からのパスを全力で追いかける。スタジアムの熱量は、さらに高まっていく。

85分、右サイドの低めの位置から加藤大育がロングスローを前線に入れる。バウンドしたボールが敵陣方向へ抜けていく。安藤はDFと競り合いながら最後まで食らい付くと、ゴールラインを割りそうなボールに左足を伸ばした。

そこに、橋本陸がいた。暑さの中で90分近く左サイドを上下動し続けてきたウイングバックが、いた。

「翼を信じていたのはもちろんですけど、とりあえず走って、こぼれてくればいいかなと」

橋本はスライディングしながら左足のアウトでうまく合わせると、ゴール左隅に豪快に突き刺さった。

アディショナルタイムは7分間。残りわずかで投入された松澤彰は時計の針を進めるために、身体を張り続けた。全員が勝ち点3をとるために、それぞれの役割を果たした。そして98分15秒、タイムアップの笛が鳴った。

“諦めの悪い男たち”のDNA

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7月15日、相模原ギオンスタジアムのピッチにいたのは“諦めの悪い男たち”だった。

2020年、あらゆる困難を乗り越えてJ2昇格をつかみとったチームのDNAは、当時の選手が誰もいなくなっても、しっかりとクラブに残っていた。

この日のヒーローになった橋本は、象徴的存在だ。

福島ユナイテッドFCから加入した25歳は、若手が多いチームでは副キャプテンを任された。開幕戦では左サイドバックとして先発出場したが、それ以降はスタメンを外され、メンバー外にもなった。

どんな状況になっても腐ることはなかった。うまくなろうと毎日の練習に取り組んできた。積極的に声を出して周りを鼓舞した。そうやって、這い上がってきた先にあった、決勝ゴールだった。

「努力は裏切らないなと改めて感じました。苦しい時期もありましたけど、ブレずに頑張った結果、こういったご褒美をもらえたのかなと思います」

スタジアムの中で行われるフラッシュインタビューに向かう前、橋本はメインスタンドに向かって「よっしゃー!」と吠えた。

俺たちはできる――。そんな心の叫びだった。

ミックスゾーンにやってきた橋本の声は、ちょっと枯れていた。

「叫びすぎました(笑)。点取った時はそこまで叫んでなかったですけど、試合終了の時とマイクを持って喋る時に大声を出しすぎて……ちょっと興奮しすぎました」

ただ、これがゴールではないし、何も終わっていない。それは誰もがわかっている。

「今日は最高に喜んでいいと思いますけど、切り替えてやっていきたい。まだ最下位ですし、僕たちは、ここから上がっていくだけなので」

バスに向かう橋本の目は、すでに次を見ていた。

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■クレジット
北健一郎(SC相模原オフィシャルライター)

※KITAKEN MATCHREPORT は不定期連載予定です※