SC相模原

SC相模原

NEWS DETAIL

07-02-2020

お知らせ

KITAKEN MATCHREPORT Vol.29『いつもと違うギオンスで』

GIO_0088.JPG

KITAKEN MATCHREPORT Vol.29
vs Y.S.C.C.横浜
『いつもと違うギオンスで』

わかってはいた。わかってはいたけども、いつもと違うギオンスには、やっぱり戸惑ってしまった。

駐車場に車を停めて、メディア受付入り口に向かう。すれ違うのはランニングコースを走る人しかいない。ずらっと並んだキッチンカーも、楽しそうに過ごすファミリーも、選手バスの入場を待つサポーターも、今日はいない。

スタジアムに入る前には体温測定が行われ、記者席は決められた場所以外には座れない。新型コロナウィルスの感染予防対策として、Jリーグが定めたガイドラインによるものだ。試合前の集合写真では、ソーシャルディスタンスが保たれた。

約4カ月遅れの開幕戦が静かに始まろうとしていた。

開幕カードは近隣クラブ同士のカードを組むというJリーグの意向によりY.S.C.C.横浜との神奈川ダービーになった。昨シーズンは1勝1敗。最終順位ではY.S.C.C.横浜が13位と上回られている。

「どこのチームにも勝つ可能性があるし負ける可能性がある。それがJ3」(三浦文丈監督)

だからこそ、初戦の結果は重要な意味を持つ。スタートダッシュできるか、つまづくか――。Y.S.C.C.横浜にとっても、同じこと。お互い以外にあらゆるルートから映像を集めて、システム、戦い方、要注意選手をリサーチしてきたはずだ。

SC相模原のスタメンはGKにビクトル、DFは夛田凌輔、田村友、富澤清太郎、星広太、ダブルボランチが梅鉢貴秀、鹿沼直生、サイドハーフは右に松田詠太郎、左に清原翔平、2トップは三島康平とホムロ。

キャプテンの富澤清太郎は2020年のチームコンセプトをこのように表現する。「攻守両面、チーム全体でアグレッシブに戦うことを目指している」。強度の高い守備と、スピード感にあふれる攻撃。練習試合でJ1、J2といった格上相手にも結果を出したことで、自信を深めていた。

ただ、立ち上がりにペースをつかんだのはアウェイチームだった。SC相模原は緊張感からか、イージーミスが多発してしまい、リズムをつかめない。「落ち着こう!」。ほとんど人がいないスタジアムに選手同士がかける声が響く。

10分以降はSC相模原が相手を押し込む時間が増えた。とりわけ、ゴールの可能性を感じさせたのがコーナーキックだった。試合の1週間前、薩川了洋ヘッドコーチがオンラインイベント「サガミスタライブ」で言っていたことを思い出した。

「セットプレーで1点は取れるんじゃないかな」

天性の明るい性格を持つ”サツさん“の表情が、その瞬間は勝負師のそれになっていた。Y.S.C.C.横浜がコーナーキックを「ゾーン」で守ってくるのはスカウティング済みで、どういうパターンを狙うかを何度も練習してきたはずだ。

特定のマークを持たずに、ゴール前に人を並べるゾーンでは、ゴールから遠いファーサイドの選手がフリーになりやすい。SC相模原のキッカー、清原と星は1本目からファーを狙っていた。

16分。右コーナーを星がファーに蹴ると、バックステップからジャンプした富澤が折り返す。これをゴール中央のホムロが頭でプッシュ。決まった!しかし、ゴールライン上にいたY.S.C.C.横浜の選手にクリアされてしまう。

ビッグチャンスを逃したものの、緑の勢いは止まらない。先導したのは右サイドの24番、松田詠太郎だった。横浜F・マリノスのユースからトップに昇格した2020シーズン、トリコロールのユニフォームを着る前に、育成型期限付き移籍でSC相模原へやってきた。

突出したスピードを持つウイングは、練習試合から才能の片鱗を見せていた。右サイドでボールを持ってからの仕掛け、快速を生かしたDFラインの背後への飛び出し。前半のチャンスはほとんどが松田から生まれていたといっても過言ではなかった。

32分のプレーが印象深い。右サイドで鹿沼からのスルーパスに抜け出す。松田はGKとDFの間を通したグラウンダーのクロスを送った。三島が足を伸ばして触るも、わずかにミートしきれず、ゴールの枠はとらえられなかった。

クロスもさることながら、特筆すべきはボールを引き出す動きだ。鹿沼からのパスが出る直前、松田は自陣方向に下がって受けるようなアクションをしている。それによって対面の相手を自分に引きつけておき、素早い方向転換からダッシュして鮮やかに裏をとった。

「良い抜け出しは自分でもあったんですが、得点に結びつかなかったので60点ぐらいだと思います」

自己評価は高くはなかったが、Jリーグデビュー戦で松田が与えたインパクトは強烈だった。

スコアレスで折り返した後半、三浦監督が動く。三島に代わってユーリ。元U-20ブラジル代表の経歴を持つ25歳のストライカーが投入された。これは試合前からのプラン通りだったという。

今シーズンのJリーグはシーズン短縮によって過密日程になることに伴って、1試合で5人まで交代が認められている。交代のタイミングは3回までだが、ハーフタイムでの交代はカウントされない。

「みっしー(三島)は前半かなり起点になってくれていたし、悪くなかったというか良かったと思う。ただ、この後の連戦を考えたときに無理はさせたくなかった。だからみっしーが良くても悪くても、後半からユーリを使おうと決めていた」

三浦監督は練習試合をするたびに、対戦相手の監督からユーリについて「あの選手は誰?」と聞かれたそうだ。大宮アルディージャとの公開練習試合の後には大宮サポーターから「相模原のボブ・サップみたいな選手にやられた」とツイッターにつぶやかれた。

体をぶつけられてもびくりともせず、ゴリゴリとこじ開けていくフィジカルは、J3どころかJリーグ全体でも別格だろう。怪我を抱えていたこともあって、45分間のプレーは「試運転のような感じ」(三浦監督)と最初から全開ではなかったが、今後が楽しみになったのは間違いない。

60分に清原→和田昌士、83分にホムロ→才藤龍治、89分に松田→上米良柊人。三浦監督は交代カードを次々に切ってゴールを狙いに行った。だが、最後まで1点は奪えなかった。

三浦監督は「完全非公開の練習試合のようだった」とリモートマッチを表現した。そして、こうも付け加えた。

「残り10分、一番きついところで、うちのサポーターがゴール裏だったり、メインスタンドやバックスタンドだったりも一体となって『相模原!』と声援をしてくれたら、もしかしたら拮抗した試合で一刺しできたじゃないか……と思うところはあります」

試合終盤、同点で勝ち点3をとりにいく。いつものギオンスだったら、スタジアムが一体となって声と拍手を送って、ピッチ上で戦っている選手たちを奮い立たせて、ギアがもう一段階上がる状況だ。

オフィシャルライターになってからの2シーズン。僕はギオンスで何度も試合の終盤にゴールが生まれる場面を目撃してきた。戦術とか、能力とか、そうしたもの超越した何かを感じた。

ただ、今日は12番目の選手がいなかった。見えざる力を引き出してくれる、大事な存在がいなかった。

「応援してくれているファン・サポーターがいることでアドレナリンが出て、いつも以上に躍動できるんですけど、それと比べたら冷静にやっている自分がいたかなというふうには感じます」(富澤)

開幕戦で勝ち点1をとれたのは悲観するような結果ではない。それでも、僕は確信している。いつものギオンスだったら絶対に勝っていた、と。



取材・文 北健一郎(SC相模原オフィシャルライター)