「ここはJリーグで唯一無二のゴール裏」
子どもから選手の親も応援に参加する空間を作る、3人の若手サガミスタ
小林航太郎 / 高嶋啓太 / 土井重樹
温かさと、熱さが同居する相模原ギオンスタジアム。
そんな空気感を作り上げるのは、ゴール裏のなかでも若手の小林航太郎さん、高嶋啓太さん、土井重樹さんの3人だ。
どんな状況でもSC相模原が前を向けるような声掛けを忘れず、声で背中を押すサガミスタ。
前回のホームゲーム、松本山雅FC戦は前半戦終了時点で0-2と窮地に追い込まれてしまった。アウェイのゴール裏には、大量の松本サポーターがギオンスをジャックしようとしていた。
しかしサガミスタはそれ以上の声援とスタンドを巻き込んだ一体感で立ち向かった。全員で作り上げたその空気感が、選手のパワーになり、足を動かす。そして、1点、また1点と返しアディショナルタイムに逆転弾が生まれ劇的すぎる勝利で幕を閉じた。
「サガミスタの声が力になって勝てた」。選手にそう言わしめるほどの熱量を、彼らはいかに生み出したのか。
サガミスタの温かさで人の輪が広がっていく
──3人のサガミスタ歴と、このチームを応援するようになった理由を教えてください。
土井重 サガミスタ歴は3年ですね。元々僕は違うJリーグのチームを応援していたんですけど、地元のSC相模原がJ2に昇格したことを知って両方とも応援していたなかで1年で降格して、次のシーズンは最終節の松本戦で負けた時に最下位が決定してしまったじゃないですか。その時に「今はJリーグで一番下のチームかもしれないけど、今後J2→J1と上がっていけるよう応援したいし、ここから強くなっていくだろうな」という感じもして、このチームだけを応援しようと思いました。
小林 まだチームがJFLにいた時だったんですけど、きっかけは小学6年生の夏休み前に配られた『真夏のホーム3連戦』の招待チケットで試合にいったことでした。チケットに載っていた選手の番号が200に見えて、「サッカーで200番ってあるんだ」って思ってサッカーをやっている友達に聞いたら「そんな番号ねえよ」と馬鹿にされたことが悔しくて。「じゃあ見に行って確かめてやるよ」というのがきっかけでした(笑)。でもその時の試合で、GKから始まったスーパーカウンターでゴールが決まって、最後にファミリアを踊っている光景を見てからハマっていきました。
高嶋 僕は小学生の時にSC相模原のGKスクールに通っていたからでした。その時はチームがまだ関東1部リーグに所属していた時で、中学の時はそのまま相模原のジュニアユースに通っていたので試合会場の設営の手伝いやボールボーイをしながら試合を見ていて、SC相模原は自分の側にずっとあるようなクラブ。ナベコーチ(渡辺彰宏GKコーチ)とも、もう10年以上の付き合いですね。
──みなさんがゴール裏で応援するようになったのは、いつからでしたか?
高嶋 ゴール裏に行き出したのは去年、声出し応援が解禁されたあたりですね。元々はバックスタンドから見るのが好きだったんですけど、2人のような年齢の近い人たちが応援していたこともそうだし、土井重から熱烈なオファーを受けたことも理由の一つでした。
土井重 僕もゴール裏に行き出したのは去年からなんですけど、高嶋は中学からの仲でGKをやっていて声を出すのが得意そうだったというのと、ゴール裏に一人でも多くの人を集めたくて誘いました。
小林 僕はまだゴール裏じゃなくてバックスタンドで集まって応援している時代からでした。J3に昇格した時に応援団体の場所がスタンドの1〜2段目から2〜3段目に上がって「それなら一緒に応援もできてピッチとの距離感もいいな」と思って3段目の応援席に加わるようになりました。
──ゴール裏で応援することの醍醐味や利点はどんなものがありますか?
高嶋 点を取った時や、勝った時の喜びをみんなで分かち合えることはすごくいいことだなと思いますね。
土井重 サガミスタのみなさんは温かい人ばかりですし、いろんな人とスタジアム内外で会話やあいさつができる。そうやって人の輪が広がっていくことはとてもいいですね。
小林 僕は3つあると思っていて、1点目はSC相模原に対する気持ちをチャントや旗、横断幕を掲げてスタジアムで一番熱く表現できる場所ということですね。もう一つが、通路や座席がないので人との距離感が近くて、2人が言ったようにみんなと感情を爆発できること。3つ目は、勝った時のファミリアを間近で一緒にできることが魅力だなと思っています。
子どもも応援に参加しやすいゴール裏
──全国に60のJクラブがありますけど、相模原のゴール裏は先月の松本戦でも子どもがどんどん集まってきたように参加しやすい空気感がありますよね。
小林 それは応援に参加してくださるみなさんが優しいというのがありますね。
土井重 みんなが「ここで応援しよう」って中心部に呼んで、前へ誘導してくれるので僕らとしてもすごくありがたいですね。
高嶋 ギオンスのゴール裏は席が一人ひとり決まっているわけではないので、小さい子たちには前に出て一緒に応援してもらいたいですし、そういう気持ちがみなさんも強いのかなという印象がありますね。
土井重 おもしろい試合になると子どもたちは「ゴール裏に行こうよ」って来てくれるのをよく見ますし、いつでも来ていいよという僕たちのスタンスもあって来てくれるのかなと思いますね。
小林 僕の想像ですけど我々より上の世代の方は他のチームを応援していた過去があって、その人たちが他のクラブと比べた時に、相模原には優しい雰囲気が元々あったからこそ数珠つなぎでここまで来ているんじゃないかなと思っています。僕が子どもの頃も「あの場所に行くの怖いな」と思っていたら、自分はもしかしたら今ここにいないかもしれないです。例えばみんなに挨拶をしたり歌詞カードを配ったりはしていますけど、我々の溶け込みやすさも半分くらいは要因しているのかなと思います。
土井重 このチームは負けた後でも誰も怒ることなく、選手たちが前を向けるような声かけが多くて、そういうのは長年積み上げられてきたものなのかなと思います。そのスタイルに正解・不正解はないですけど、それがこのチームの良さだし、他にはない良さがここにはあるのかなと思います。
──2022年から2023年にかけて、ギオンスで1年以上勝てていない時期もありました。その時は「そろそろ勝ってくれ」とは思いませんでしたか……?
土井重 その時期は、「自分たちが勝たせる応援をできていないのかな」ってみんなでめちゃくちゃ悩んでいました……。でも、「いつかは勝つだろう」と思って。沼にハマってしまっていた時期でしたけど、そこをどう越えるかが大切で、昨季の後半戦は良くなっていきましたし、僕らの声かけもやはり大事になるなと感じました。
高嶋 僕もサッカーをやっていて勝てない時期を経験したことがあるので、クラブの人たちがどれだけ辛い思いをしているか、ある程度わかっていたつもりでした。そのなかでどんなに負けていても、みんなで後押しをしようという声が多いゴール裏だと思っています。僕にとってSC相模原はジュニアユースの時に3年間過ごして育ったクラブでもあるので、そのクラブを後押しできるならし続けていきたいと思っています。406日ぶりに勝てた奈良クラブ戦は、みんなと最高に喜び合いました。
小林 僕はそもそも声を出したり、太鼓を叩いて応援するということ自体が好きで、勝てない時期も応援が苦になることはありませんでした。奈良クラブ戦の1カ月前くらいの、昨季のアウェイ松本戦からコールリーダーを任せてもらう機会が増えていったのですが、自分の役目は周りの人を楽しませることだと思っていて勝利が遠い時に、みんなに楽しんでもらえるような空間をいかに作るかという点で苦戦しました。毎試合、最後にみんなの前で一言喋る時間があるんですけど、「次、切り替えて」と言った次の試合でも「切り替えて」と言って、また次の試合でも「切り替えて」という言葉を繰り返していて、だんだん「みんなに刺さってないな」と感じていた時期は厳しかったですね(苦笑)。
土井重 負け続けていると選手にどう声をかけたらいいか、奈良クラブ戦前の4試合は特に悩んでいて、そこで僕らもいろいろ変われたかなと思いました。
高嶋 なにを言えば選手はもう一度前を向こうとする力になれるかなって考えましたし、あの時期は辛かったですね。
──今季は上位にずっと居続けていますが、逆に選手へ要望したいことはなにかありますか?
土井重 そうですね……バスを降りた時、サガミスタからのコールに応えてほしいなと思ったことはあります。
高嶋 こっちを向いて手を振ってくれるだけでみんな嬉しいので、それはぜひやってほしいですね。
小林 そうですね。アップ中や試合前になると選手は集中していると思いますけど、最初のバスを降りた時は反応してもらえるとありがたいなって思います。あとは、ファミリアの時、みんなに前に出て踊ってほしいですね。
高嶋 最近は大人しい選手が多くなって、前に出る選手は減ったなっていう感じがします。
土井重 普段は絶対踊らなさそうな、(岩上)祐三さんに前に出てきたらおもしろそう(笑)。いつか躍らせるために、うまくその場を盛り上げたいですね。
いつか、満員のスタジアムでコレオを
──小林さんは試合前にサガミスタへ挨拶と声かけをして応援に入りますけど、いつも事前に言葉を考えて喋っているんですか?
小林 多少イメージはしてますけど、その場のフィーリングですね。あの瞬間は結構記憶が飛んでます(笑)。
土井重 めっちゃいいことを言う時とマジでなにを言ってるかわからない時があるから、差がすごい。
高嶋 常に目がバキバキですね(笑)。
小林 でもあれがあるから盛り上がっているんで。入りが大事ですから。
──「寒いけど、こっちは短パン履いてきたから勝つしかねえんだよ!」って言ってる日もありましたよね(笑)。
小林 昨シーズンの岩手戦の日ですかね(笑)。自分がすごい刈り上げた時で、帽子を取って「髪型やべえけど、いこうぜ!」って言った気がします。
高嶋 盛り上がるけど、笑っちゃいますよね。
小林 あれは毎回じゃなくてここぞという時だけにするか、迷うこともあるんですよ。
土井重 でもあれがないと、始まった感じがしないかな。
──小林さんが小学生の時から試合に来ていたのを知っている方がいることもあって、温かい目で見られているのかもしれないですね。
小林 確かに親のような目線で見られている気がします(笑)。それもまさに温かさにつながっていると思いますし、すごくやりやすいですね。
──最近はバックスタンドの方たちにも声をかけていますよね。
小林 そうですね。本当は直接スタンドへ行きたいなという思いもありつつ、他のチームではそういう光景が当たり前で、J1やJ2のサポーター団体がやっているようなことに足を踏み入れつつある感じですね。そこでゴール裏だけじゃなくてスタジアム全体の一体感を作れたらいいなと思っています。
土井重 この前は松本に勝つために少しでも一体感を出そうと、真ん中に集まるとメインスタンドからもバックスタンドからも距離感が生まれてしまうのでバックスタンド側に寄ってみるという工夫もしてみました。アウェイに向かう車内で僕たち以外の人からその意見が出て、バックスタンドには招待券で来ている人もいるということもあって、近くで応援を見て来てくれたらいいなという思いもありました。
高嶋 松本には本当に勝ちたかったもんね。
土井重 「松本を越えないとJ2にはいけない」と思うほど、勝ちたい気持ちがありました。だからこの前は夢かと思うくらい、ふわふわした感覚でしたね。リーグ戦のただの1試合だったかもしれないですけど、僕らにとっては本当に大きな意味を持つ1試合でした。それに、あの日は相模原市民デーで初めて試合を観に来た僕の友達も「また行きたい」と言ってくれてましたし、そこで勝てたことも大きかった。
──松本戦の後に牧山晃政選手が残した「サガミスタはずっと変わらずいてくれる」という言葉は名言でしたね……。
小林 嬉しいですね。
高嶋 24番の夏ユニ買うか。
土井重 (笑)。牧山選手の親御さんは地元の九州方面のアウェイゲームでゴール裏に来ることもあって、そこも他のクラブではなかなかないんじゃないかなと思います。
高嶋 三浦基瑛選手とか、川島康暉選手の親御さんも来たことがあります。
小林 しかもめっちゃ応援してくれるので、ありがたいですね。
土井重 こっちも来てくれるのはありがたいですし、選手の親も来れるゴール裏ですね。
高嶋 みんな厳しい言葉を吐かないから、安心して来てくれるのかなって思います。
──このSC相模原の空気感を大事にして、将来ギオンスで、あるいは新スタジアムでどんな景色を観たいと思っていますか?
土井重 まずはスタジアムを満員にしたいですね。スタンドも埋め尽くされたなかで、ファミリアをすることが夢でその光景をずっと見てみたいと思っています。
高嶋 僕は高校時代、新潟にいたので川口能活さんの引退試合には行けずスタジアムが満員になった景色を見たことがなくて、ギオンスでもいいですし、新しいスタジアムでもいいのでバックスタンドやメインスタンドもサガミスタの緑で埋めて、スタジアム全体で選手を後押しする空間を僕も見たい。そうなれるよう、僕らも頑張っていきたいですね。
小林 2人が言うように満員のサガミスタで応援する光景を見たいですし、そのなかで個人的にはコレオグラフィーをやってみたいですね。それをやるためにもそうですし、選手に応援されている、後押しされていると今以上に感じてもらうには、人数が必要だと思います。
土井重 かっけえな。
高嶋 激アツですね。そういう光景も見たいな。