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08-25-2023

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KITAKEN MATCHREPORT Vol.44「決断と決意」

徹夜で行ったフィードバック

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スタジアムには重苦しい空気が漂っていた。

ホームにY.S.C.C.横浜を迎えての“神奈川ダービー”。

先週のアスルクラロ沼津戦では、6人の新戦力が全員スタメンに名を連ねていたなかで0-3で敗戦。アウェイに乗り込んだ選手たちのショックは小さくなかった。

「選手は勝ち負けがメンタル的に影響すると思うので、こちら側がしっかり整理して、選手に伝えて次に向かいたいと思います」

記者会見で戸田和幸監督はそう語ると、実際に行動に移した。ナイターゲームを終えて、沼津から自宅に戻った時点で、すでに夜も深い時間だった。そこから夜通しで沼津戦の分析と映像編集を行い、翌朝のリカバリー前のミーティングで集まった選手たちに伝えた。沼津戦での「できていたこと」を抽出した上で、「絶対に下を向いてはいけない」という言葉と共に次の試合に向かわせた。

戸田監督が送り出したのは沼津戦と同じ11人だった。それこそが、「やり続けよう」というメッセージだった。

しかし、サッカーは自分たちが思い描いた通りになるとは限らない。前半15分、DFラインの背後を突かれて先制されると、39分にはCBの東廉太が負傷交代。風上でありながらシュートは3本しか放てなかった。1点ビハインドのまま、前半タイムアップの笛が鳴った。

スタジアムには重苦しい空気が漂っていた。


戸田監督が打った“手”

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戸田監督は素早く手を打った。

「失点の仕方が良くなかったので、少し試合が難しくなると感じました。『なにか変えなければいけない』と思ったのでハーフタイムに選手交代をしました」

増田隼司→牧山晃政。運動量豊富な“ダイナモ”の投入には、横浜のビルドアップを封じるという、戦術的な狙いがあった。ボール保持時、横浜は3バック+GK児玉潤の4人でボールをつないでくる。

それに対して、前半の相模原は2トップでプレスをかけていた。前回の試合で「後半は彼にやられた」というボランチの中里崇宏を警戒していたためでもあったが、左足のキック精度が高いGK児玉にフリーでパスを出されることで、危険なシーンをつくられていた。

後半、戸田監督はマークのつき方に変化を加える。守備時に牧山を1列前に出すことで、瀬沼優司、齊藤聖七と共に3人でプレスをかける。横浜はGKがビルドアップに加わるため、3対4の数的不利にはなるが、GK児玉にパスが出れば、すぐに2度追いをして、自由にボールを蹴らせない。

「戸田さんからは、守備の時に前に出て、相手の左のCBを捕まえにいくとか、攻撃では自分が背後に抜け出してスペースを空けたり、空けるだけでなくしっかり受けて深い位置を取るということをやってほしいと言われていました」(牧山)

前へ、前へ。その圧力が、試合の流れを変えた。

47分、右サイドからのフリーキックを獲得すると、岩上祐三が右足でカーブをかけたボールを入れる。ゴール前の混戦で、金髪の頭がシュートを叩き込んだ。加藤大育だった。ブリオベッカ浦安から加入した快速DFのJリーグ初得点は、貴重な同点弾となった。

「初ゴールというより『同点だ。ここから次、また点を取るぞ!』という感覚でした」

加藤はゴール裏のサガミスタに向かって両手を使って「もっともっと!」と煽る。どんよりとしていたスタジアムの空気を一変させた。

戸田監督は、さらに手を打つ。

瀬沼優司と岩上を下げて機動力に長けた西山拓実と安藤翼を投入。79分には吉武莉央に代えて、デューク・カルロスをピッチに送り込んだ。スピードのある選手を前線に並べて、貪欲にゴールを狙いに行った。

そして86分、ついにその瞬間は訪れた。

中盤で安藤がボールを受けると、素早いターンからDFラインの背後をとったデュークへスルーパス。デュークのシュートは、前に出てきたGKに触られながらも、ゴールに吸い込まれた。

「ただいまの得点は……デューク・カルルルルルルルロォォォォス!!!!!」

スタジアムMCの福田悠が、舌が千切れそうなほどの巻き舌で名前をコールし、デュークも逆転弾を決めた喜びを噛み締めた。

これまでも決定的なチャンスはあった。先月29日に行われた第20節・AC長野パルセイロ戦でも同じようにGKと1対1を迎えたが決められなかった。

「勝てなかったり、点が取れなかったりと、自分自身悔しい思いをしていたので……その悔しさが喜びになって現れたんだと思います」

ここは我々の“聖地”だ

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アディショナルタイムは5分。前回の横浜戦では2点リードから追いつかれる、苦い思いをしている。

だが、今回は違った。安藤とデュークが中心となって、敵陣奥深くで体を張りながらボールをキープ。ベンチではピッチから退いた選手、出場機会のなかった選手も全員が立って見守り、時には声を出して最後の気力を振り絞って戦う仲間を鼓舞した。

文字通り全員が一つになって戦い、危なげなく時計の針を進めていくと、主審から試合終了を告げる長いホイッスルが吹かれた──。スタジアム中で歓喜の声に包まれ、相模原は今季4勝目を挙げた。

一時は長い間、勝利から遠のいていた相模原ギオンスタジアム。しかし7月15日の第18節・奈良クラブ戦で逆転し、406日ぶりの勝利を収めてからの戦績は3勝1分。戸田監督は「ここは我々の“聖地”だ」という話を選手にし、「そういう(勝てる)場所になってきたというのは、すごく喜ばしいこと」と笑顔を見せる。

ホームで勝ち点3を積み上げたことで、相模原は9試合ぶりに最下位を脱出。ようやく、居心地の悪かった場所から抜け出せた。

試合後のゴール裏では、デュークがトラメガを片手に勝利のファミリアの音頭を取り、加藤が肩を組んで歌う選手たちの前に出て踊った。

「自分はああいうのは苦手なタイプなので、うまくできたかわからないですけど(笑)、喜びを全面に現して、それでサガミスタの皆さんが喜んでくださったのがすごくうれしかったです」(加藤)

「ああいうのはあんまり得意じゃないんですよ(笑)。勝ってああやってみんなが喜んでくれるのは気持ちいいですし、あの姿を臨んでいると思うので、また勝てるようにいい準備をしたいです」(デューク)

夏に6人の新加入選手が加わり、スタメンの顔ぶれは大きく変わった。ただ、横浜戦では牧山、加藤、安藤、デュークという今季開幕時からのメンバーが、目に見える結果を出した。

戸田監督は胸を張る。

「新しい選手が入ってきて、当然ながら序列が変わることはあります。ただ、同じポジションの選手から学びながら、その上で自分の強みを出せるか、自分が成長できるか。チーム内の競争レベルが上がったことが今日の勝利につながったと思います」

相模原の巻き返しは、ここから始まっていく。

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■クレジット
北健一郎(SC相模原オフィシャルライター)

※KITAKEN MATCHREPORT は不定期連載予定です※