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06-19-2019

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KITAKEN MATCHREPORT Vol.21『最高のプレゼント』

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KITAKEN MATCHREPORT Vol.21
vs ガンバ大阪U-23
『最高のプレゼント』

勝利の立役者となった男は、試合後にガンバ大阪U-23の森下仁志監督からこんな言葉をかけられたのだという。

「イナ、ここに合わせてきたんだろ?」

「いやいや、合わせてきてませんって(笑)」

そう思われるのも無理はなかった。“イナ”こと稲本潤一がピッチに立つのは第6節のブラウブリッツ秋田戦以来、約2ヶ月ぶりのこと。「怪我明けで、コンディションがなかなか上がってこなかった」。

ただ、39歳の大ベテランは、試合に絡めない状況をネガティブにはとらえていなかった。「早く出たいからと焦ってやって、大きい怪我をするほうがチームに迷惑をかけることになるから」。自分の力が必要とされるタイミングはやってくると信じて、じっくりとコンディションを上げてきた。

奇しくも、稲本の復帰戦となったのは下部組織から数えて12年を過ごしたガンバ大阪のU-23チームだった。U-23を率いる森下監督はガンバのOBで、稲本にとって先輩にあたる。

ダブルボランチの1人として先発した稲本が、大仕事を果たしたのはキックオフから5分後のことだった。左サイドから末吉隼也が入れたフリーキックに対し、中央からニアに走って頭で合わせた。SC相模原にもたらした貴重な先制点は、同時にJ3の最年長ゴール記録を更新するメモリアルな1発となった。

稲本によれば「分析で生まれたゴール」だったという。今週の練習では「フリーキックやコーナーキックではゾーンで守ってくる」「後ろから走り込んでいけばフリーになりやすい」といったスカウティング情報が共有され、点を取るためのパターンも仕込んできた。

第6節の秋田戦でも稲本は梅井のロングスローをニアですらし、川上盛司のゴールをアシストしている。193センチのジョン・ガブリエルと194センチの梅井大輝がスタメンから外れた今日の試合では、181センチの稲本はセットプレーのキーマンだった。

「彼ぐらいのレベルになると、勝負所というか、勘というか、そういうところは逃さない。そのへんの甘さが突かれたかなと。先輩に教わりましたね」。森下監督は“ガンバの後輩”に賛辞を送った。

SC相模原からすれば、試合の中盤までは理想通りの試合展開だったと言ってもいい。「どちらかといえば地上戦になると思っていた」(三浦文丈監督)というように、最終ラインからパスをつないでくるガンバ大阪U-23に対し、高い位置からプレスをかけてショートカウンターを仕掛けるという戦術がハマっていた。

誤算だったのは、次の1点を奪えなかったことだろう。末吉が言う。「2点、3点とれれば、楽な試合運びができるところを外して、相手に頑張らせちゃった試合だったのかなと」。

この試合で最後の決定的なチャンスは62分。大石治寿が相手のミスを誘発し、上米良柊人が高い位置で前を向いて仕掛ける。右に大石、左に後ろから上がってきた末吉がいる中で、上米良はシュートを選択。しかし、GKに止められゴールを逃した。

試合の流れはここから大きく変わる。68分、三浦監督は大石に代わってジョンを投入。最前線で守備のスイッチャー役となっていた大石が下がったことで、相模原の守備にほころびが目立ち始めた。それまでのように前線からプレスをかけられなくなって、フリーでガンバ大阪U-23の選手にボールを持たれ、縦パスを通されるようになった。

三浦監督は79分、ジオヴァンニを投入し、システムを3-4-3から3-5-2に変えた。末吉を中央に、稲本に代わって入っていた梶山幹太、シャドーから一列下がった伊藤大介の3人を中盤に並べて、縦パスを通させないようにするための修正だった。

ただ、「結構技術があった」(丹羽竜平)「質の高い選手が多い」(稲本)ガンバ大阪U-23の選手たちを止めるのは簡単ではなかった。プレスに行ってもはがされ、一方的に押し込まれる時間が続いた。それでも、1-0で逃げ切れたのは、「最後のところでは絶対にやらせない」と体を張って守り続けた守備陣の奮闘があったからだ。

3試合連続でクリーンシートを記録したGK田中雄大は胸を張る。「何本かパスを入れられた場面もありましたけど、ゴール前のところではやらせていなかったので、僕としてはほとんどシュートを打たれなかったなという感覚です」。

この日の観客数1609人。「相模原市民デー」として多くの来場が見込まれた試合は、1日中やむことのなかった雨と風の影響によって、残念ながら平均観客数を大きく下回る数字となった。

ビチョビチョに濡れる。風邪をひくかもしれない。スポーツ観戦にはおよそ最悪な条件の中で、それでもスタジアムに来た人は間違いなく“勝ち組”だと思う。

稲本潤一のゴールによって、SC相模原が勝つ--。そんな最高の試合の当事者になれたのだから。

取材・文 北健一郎(SC相模原オフィシャルライター)