KITAKEN MATCHREPORT Vol.14
vs ザスパクサツ群馬
『決壊』
あと5分だった。大石治寿のゴールによって1点をリードして、試合は終盤に突入していた。このまま耐え切れば、初勝利をつかめるはずだった。だが、そこまでゼロに抑えていた守備は最後の最後で決壊してしまう。
「アウェイで、苦しい中で1点とれて、あのまま終われれば理想だったんですけど。最悪引き分けにしなきゃいけない試合だったと思うので、反省しなきゃいけないところはたくさんあります」
3バックの1人として体を張って守り続けていた梅井大輝は、ミックスゾーンで悔しさを滲ませた。
勝てた試合だったし、勝たなければいけない試合だった。「長いボールを使って、ある程度押し込んでサイドに展開してからクロスを入れてくる」(三浦文丈監督)というザスパクサツ群馬の戦い方は、スカウティング通りではあった。
前半はファーストシュートまで41分かかったことからもわかるように、攻撃面では課題が残った。ボールを奪ったあとにパスをつなげられず、すぐに失ってしまうため、守備に回る時間が必然的に長くなった。
それでも、後半になって群馬の圧力が落ちてくると、徐々にボールを持てるようになっていった。67分の大石のゴールは、そんな時間帯に生まれた。
相手陣内でのフリーキックを跳ね返されたところを、梅井が勇気を持って前に出てつぶし、前方にいた伊藤大介につなぐ。ファジアーノ岡山から加入したファンタジスタは、体を左方向に開きながらも、右前方にいる大石を視界にとらえていた。
伊藤からのラストパスを受けた大石は、GKとの1対1で迷うことなく右足を振り抜いた。GKの脇を抜けた渾身のシュートが、ファーサイドのネットを揺らした。
「本当にチームでとれたゴールだったと思います。伊藤選手が良いパスを出してくれましたし、それまで守備陣が粘ってゼロに抑えてくれていたので、それが実った形だと思います」
開幕戦ではシャドーで先発したが、この試合では「コンディションが上がりきっていない」(三浦監督)ジョン・ガブリエルに代わって、CFとして先発していた。ゴールという結果が期待される中で、しっかりと応えてみせた。
相手の攻撃を耐えて、数少ないチャンスをものにする。理想的とは言えないまでも、試合展開としては悪くはなかった。ただ、1点をとられたことでホームの群馬は一段ギアを上げてきた。1週間前の開幕戦。群馬は同じくホームで引き分けている。
布啓一郎監督が59分、63分、76分と次々に交代カードを切ってきたのは「ホームで勝ち点3がほしい」という気持ちの表れでもあった。積極的に動いてきた敵将とは対照的に、三浦監督は「動かない」という選択をした。
「攻められてはいたけど、何とかしのいでいた。そのバランスを人を変えることによって失いたくない。ちょっとしたきっかけでバランスが崩れて失点する確率が高まることがある」
試合の流れを読んで、あえて動かずに、ピッチ上の均衡を保つ。三浦監督の狙いは少なくとも86分までは当たっていた。セットプレーから何本も危ない場面を作られていたが、全員でしのいでいた。
80分過ぎ、三浦監督がアップスペースから1人の選手を呼び寄せた。稲本だった。39歳のボランチ・稲本を投入する意図は明確だ。試合を落ち着かせて、ゲームをうまく終わらせてほしい。守備が決壊したのは、“クローザー”稲本が出ようとする、まさにその時だった。
86分、GK田中雄大が蹴ったキックを跳ね返されて、カウンターを受ける。左サイドでパスを受けた加藤潤也のカットインシュートを決められてしまった。起死回生の同点ゴールによってホームの群馬が息を吹き返した。
1-1となったが、三浦監督は伊藤を下げて稲本を入れる。アンカーの末吉隼也、その前に稲本と梶山幹太を並べて3ボランチに。「試合に出るシチュエーション的には、向こうがホームでラスト5分の勢いがあった」(稲本)。
90分+1分、右サイドを走られてクロスを折り返される。ゴール前を通過したボールを逆サイドに走り込んだ光永祐也がリターン。これを GKの目の前で加藤に触られて、2失点目を喫した。
1-2となってからジオヴァンニが入るも、一回もボールに触らないままタイムアップ。劇的な逆転勝利となった群馬の選手とサポーターが歓喜を爆発させた。
「手を打つのが一歩遅れてしまった」
試合後、三浦監督は自分の采配に非があることを素直に認めた。サッカーの世界に「たら・れば」は禁物だ。もう少し早く手を打っていれば勝てたのかは誰にもわからない。今日の試合では「動かない」という選択をしたことが、結果的に裏目に出たということだ。
「こういう流れを引きずらないように、しっかり切り替えていかなきゃいけないと思っています」
昨シーズンも勝てない時期を過ごすことや、悔しい負け方をしたことは何度もあった。このまま崩れていってしまうのか、全員で力を合わせて立ち上がるのか。チームの真価が、早くも問われている。
取材・文 北健一郎(SC相模原オフィシャルライター)