SC相模原

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05-29-2017

 試合結果 

05/J3第10節栃木戦マッチレポート

20170528_MR_J310_01 2017明治安田生命J3リーグ第10節 2017.05.28 13:00KICKOFF@相模原ギオンスタジアム SC相模原1−0栃木SC [得点]相模原:90+4分保﨑淳/栃木:ー 川口、岡根、工藤が語った言葉 ミックスゾーンで試合を終えた選手たちを待ち構えていると、まずは今季のリーグ戦初出場を飾ったGK川口能活が現れた。藤吉皆二朗が負傷したことで出番が巡ってきた川口は、ここまで無敗を続けていた栃木SCに対して、劇的な勝利を飾ったことにも、無失点で抑えた守備にも満足することはなかった。 「今日はみんな喜んでもいいとは思いますけど、4試合引き分けが続いていた中で、まだ1試合に勝っただけ。次のカターレ富山戦が大事になってくる。僕もまだ1試合しかやっていないですし、コンディションを上げていきたい。僕とカイジ(藤吉)ではスタイルも違うし、(試合に出ている)DF陣ともほとんど練習をしていなかったので、これからもっと合わせていって、さらに安定した守備を築いていけるようにしたい」 やはり、酸いも甘いも経験してきた守護神である。聞いているこちらも背筋が伸びる思いだった。続いてアンカーとして攻守のバランスを担った岡根直哉が姿を見せた。 「(前半は)シュートゼロでしたし、1回、ああやって押し込まれると、なかなか立て直すのは難しい。でも、こういうゲームはポンって得点が入ることもあるし、ホンマに我慢ですよね。我慢強さはあるので、多少悪くても点はやらせへんというか。そういう余裕はチームとして出てきている。ホンマに4試合引き分けが続いていて、ここで負けるのと、勝つのとではかなりの違いがあった。それは勝ち点ではなく、チームの勢いとか自信とか。今日、勝ったことでホンマに良い状態で次の試合を迎えられる」 そこには、左腕に腕章を巻くキャプテンの自覚と、少しばかりの安堵感が漂っていた。続いて「サッカー人生において初めてSBに挑戦した」という工藤祐生が歩いてくる。 「自分ががんがんオーバーラップするのではなく、安定した守備をすることで、シンジくん(辻尾真二)に高い位置を取らせることを意識した。前半は相手の攻撃が早かったこともあって、何度かサイドをうまく使われてしまったけど、後半はボールを保持する時間帯も長くなり、ただ単に蹴るのではなく、間にボールをつけていくプレーもできた。練習から自信を持ってできていたし、(飯田)涼や(菊岡)拓朗くんも良い位置にいてくれたので、やりやすかった。今日、勝つか、負けるか、引き分けるかで、全然、チームの雰囲気も変わると、ヤスさん(安永聡太郎監督)には言われていた。それほどチャンスの数を作れたわけではないですけど、そういう中でも勝てたことは大きい。ただ、これで満足するのではなく、連勝できれば、さらに次につながっていくので、しっかり切り替えていきたい」 経験のない左SBで出場し、主に守備を担っていたとはいえ、試合終了間際には「勝ちたい一心だった」と、攻撃参加する場面もあった。さすがチーム最古参の選手である。そのプレーは、言葉にはやはり重みがあった。 20170528_MR_J310_02 なかなか現れなかった栃木戦のヒーロー 続々と選手たちがミックスゾーンを通り過ぎていく。次第に他の記者や関係者もいなくなり、ミックスゾーンは閑散としていった。 ちょっと待てよ。おいおい、アディショナルタイムに殊勲の決勝弾を決めた選手が通っていないじゃないか。まさか、知らないうちに通り過ぎたのか。今日はみんなが彼の言葉を待っているし、さすがに彼のコメントを取らなければ記事は書けない。痺れを切らした筆者は、オフィシャルライターという特権を行使して、ロッカールームを覗きに行った。すると部屋の奧で一人、荷物を整理している人影があった。TVのインタビューに、サポーターへの挨拶、加えてハイタッチと、試合後は何かと忙しかった今日のヒーローは、一人遅れて帰る準備をしていた。 そして、保﨑淳は筆者を見つけると開口一番、「来ると思ったよ」と笑う。思わず、こちらも「思ったよじゃないよ」と笑い、隣りに座った。 ようやく1トップでの出場について聞けば「やったことはなかった。プロでもないし、大学のときもない」と答える。 シュートゼロに終わったように、前半はかなり栃木に押し込まれる展開が続くと、保﨑は後半開始とともにピッチに立った。ハーフタイムに、安永監督から「トップとサイドとどちらがいい?」と聞かれたという保﨑に、「1トップ」を選んだ理由を聞けば、いかにも彼らしいコメントが返ってくる。 「だって、ここ4試合くらいサイドで出場していたけど、つまらなかったから(笑)。守備ばっかりになるし、今日の前半も防戦一方だったでしょ? あれだと、きっと前には出ていけないだろうから、だったら前に張らしてほしいなって思って。キープ力はあるし、(問題なのは)ヘディングくらいだろうって思っていたら、ヘディングもつえーつえー、オレ(笑)」 ただ、保﨑が前線に入ったことで、劇的にSC相模原のサッカーは変わった。チームが標榜するサッカーにおいて、1トップに求められる前線で身体を張る動きだけでなく、「(人と人との)間での(ボールの)受けから、(DFの)背後への動き、(川口)能活のキックに対する競り合い」と、安永監督が絶賛するのも頷ける出来だった。保﨑は「結局、ピッチに立ったときの自分のフィーリングだから」と言い、前半の悪い流れに関しては「見ていなかった」と語るが、そのフィーリングも「本能」ではなく、彼なりの「理論」がある。 「今まで自分が培ってきた知識で判断して動いた。FWはこういう画面では、こういう風に裏に抜け出せれば、たぶん球が来るとか。1トップだったら、あそこで少し時間を掛けて、みんなが上がってくるタメを作って、うまくスライドして相手を散らしてから、もう1回、前に入っていくとかね。ちょっと詰まっているときは、DFの背後、裏に抜ける。蹴られたボールに対しては、なるべく自分が競りに行く。自分がやらなければならない仕事を考えただけ」 20170528_MR_J310_06   保﨑のゴールに隠された伏線 前半は栃木にやり込められていた相模原だったが、後半はむしろ巻き返した。もちろん58分には西谷和希にバー直撃のシュートを放たれ、カウンターの応酬になった90+1分には同じく西谷のボレーシュートを、川口がセーブする場面もあった。ただ、まさに試合終了の笛が吹かれようとしていた90+4分、保﨑はチャンスをモノにするのだが、そこには自らが作った伏線があった。 ひとつは87分のカウンターである。栃木の攻撃を防いだ相模原は、工藤から普光院誠へとつなぐ。同時にピッチ中央を走る保﨑に、普光院からパスが通った場面だった。 「普光院からパスが出たとき、トラップが流れちゃったんだよね。GKともかなり駆け引きしたんだけど、前に出てきたらファーサイドにループを狙おうと思ってた。でも、GKは一歩も出て来なくて、DFはオレが切り返すだろうと思っていたことも分かっていたし、2枚目も見えていたけど、まさかそこまで早く詰めてくるとは思わなくて(ボールを)取られてしまった」 伏線はもうひとつあった。決勝弾が決まる2分前の90分+2分のことである。辻尾からのクロスをヘディングで狙ったシーンがそれだった。 「まず辻尾からのクロスを受けたとき、ちょっと相手に身体をぶつけて、マイナス気味に下がってからヘディングしたんだよね。あの瞬間、最悪でも弾くかなって思ったら、キャッチされたんだけど、GKの動きを見ていたら線上でステップしていた。だから、そういうボールに対しては(GKが)反応してくることが分かった」 そして得点が決まった90+4分である。自陣から蹴ったロングボールを相手DFが処理しようとしたところに普光院がプレスを掛ける。そしてボールを奪うと、走り込んだ保﨑にパス。二度の伏線でGKの動きを見極めていた保﨑は、ファーサイドにシュートを蹴り込んだ。いや、彼の言葉を借りれば「ぶち込んだ」。 「得点が決まったシーンも、普光院からのパスを受けたときのトラップはあまりよくなかったんだけど、GKを見た瞬間、ファーポストが空いていたから、そこに打てば絶対に反応できないと思った。だから、そこをぶち抜いた。たぶん、あの2本がなかったら、もうちょっとオレ、あそこで良いことをしようとしていたと思う。でも、あの伏線があったから、コースにさえぶち抜けば、絶対に反応できないって自信があった。だから、打った瞬間、入ったと思ったし、これは『いただき!』って思ったんだよね」 本人は「感覚」と言うが、そこには培ってきた経験と、明確な理論がある。誰よりも感情を剥き出し、誰よりも激しいプレーを見せるため、本能でプレーしているように見えるが、彼には確かなインテリジェンスがある。練習でも試みたことのない、ぶっつけ本番の1トップだったが、その動きの質と結果を見れば、「感覚」ではないことが分かる。それを本人に伝えれば、彼らしい口調で答えは返ってきた。 「前にも言ったでしょ? ここだけはあるんだって」 そう言って、保﨑は自分のこめかみを二度、叩いた。プレーを見れば見るほどに、話せば話すほどに、その人間味に惹かれていく。おそらく周囲のスタッフも、サポーターも頷くことだろう。保﨑とは、そんな「フィーリング」を感じさせる選手なのである。 そして、彼のプレーはまさに相模原が、安永監督が標榜する1トップの動きを体現するかのようだった。主戦場は左SBだが、1トップで出場した彼のプレーには、チームが、そして他のストライカーたちが求められている動きのヒントがたくさん詰まっていた。 前半の内容を考えれば、チャンスの数で言えば、まだまだである。ただ、今季無敗を続けていた栃木に勝利した結果は、今の相模原にとっては大きい。実は、試合終了の笛が鳴った瞬間、ピッチに倒れ込んだ選手が6人ほどいた。3人の途中出場とGKを除けば、それはほぼ全員である。栃木戦は、安永監督が目指しているサッカーが、ひとつ形になった日だったのかもしれない。 20170528_MR_J310_05