
2017明治安田生命J3リーグ第8節
2017.05.14 13:00KICKOFF@相模原ギオンスタジアム
SC相模原1−1グルージャ盛岡
[得点]相模原:21分川戸大樹/盛岡:68分菅本岳
指揮官の期待に応えた選手たちが作った先制点
指揮官の起用に応える先制点だった。21分、ピッチ中央で3試合連続の先発出場となったMF徳永裕大が、激しいチェイスからボールを奪取する。これを初先発のチャンスをつかんだMF川戸大樹が拾うと、同じく今季初先発したFWジョン・ガブリエルへとつないだ。
川戸がその場面を振り返る。
「ボールを受けた瞬間に、自分で行くこともできましたけど、ジョンに預けて自分は相手の背後を狙いに行こうと思いました」
安永聡太郎監督から“槍”と表現される背番号24は、自ら勝負するのではなくチームメイトを信じた。その信頼を感じ取ったのか、ジョンは素早くDFの裏にパスを送る。川戸が再び振り返った。
「ジョンとは日頃から築き上げてきた信頼関係があるので、あそこでボールを受けたら、出してくれると思っていた。だから、走り込むだけだったのかなって」
信じたとおり、パスは出てきた。抜け出した川戸は、ドリブルでさらに一歩、前に持ち出すと、豪快に右足を振り抜いた。
「あれは自分のプレースタイルを象徴するような得点だった」
シュートした際の着地で左足を痛めた川戸は、テーピングを巻いて強行出場を続けたが、やはり状態は思わしくなく、35分にDF保﨑淳と交代した。
「テーピングをがちがちに巻けばできるかなって思ったんですけど、見ていても分かったと思いますし、監督にも『足を引きずってるだろう』って言われましたけど、オレはやるしかないって思っていた。交代枠や時間帯もあったし、前半だけでも死ぬ気でやろうと思っていた。周りに負担をかけないようにがんばっていたつもりでしたけど、足を痛めてからはあまり動けなかったです」
殊勲の先制点を決めた”槍”は、足を引きずりながら苦い顔を浮かべた。その表情から滲んでいたのは、痛みではなく悔しさだけだった。
先制点を奪った後、できていた守備ができなくなった
3−4−2−1システムを採用するグルージャ盛岡は、昨シーズン在籍していた岩渕良太を中心に細かいショートパスを用いて、ゴール前をこじ開けようとしてきた。チーム屈指のパスセンスを誇るMF菊岡拓朗にして「昨季対戦したなかでも、かなりボール回しがうまい印象があった」という盛岡に、押し込まれる場面も多かったが、先制点を奪うまでは前線からの守備により対応できていた。ジョンを頂点に、徳永や菊岡ら2列目も連動したプレスを掛けることで、アンカーの岡根直哉が相手からボールを奪取する。そこを突破されても、梅井大輝と初先発を飾った米原祐のCBが弾き返し、そのロングボールをジョンが競り勝つことで、狙いどおりの攻撃にもつながっていた。また、全体がコンパクトで、かつ高い位置でボールを奪えることで、開始直後の7分にもジョンのボール奪取から菊岡、普光院誠とつなぎ、徳永がシュートする好機も作り出した。28分にもジョンのポストプレーから抜け出した川戸がシュートする場面もあった。
だが、先制点を奪った相模原は、虎の子の1点を守ろうという意識が働いたのか、受け身に回ってしまう。指揮官もその展開を指摘した。
「1点を取るまでは、全体として非常に良く戦えていたと思うんですけど、(点を)取った後に少し全体が相手をリスペクトしすぎて、ボールを取りに行かない展開がずっと続いてしまったのは、僕のメッセージのミスなのかもしれない。そこはもう一度、選手たちと確認して、得点を取った後……この間(前節のアスルクラロ沼津戦)も、追いついた後の10分くらいはどうしても引いてしまっているので、点を取った後、どのように戦うかというところは、もっとはっきりとさせなければいけないのかなと」
そうした状況を打破するには、後半も前半の立ち上がりと同様、前から連動した守備を行う必要があった。だから後半に入り、運動量の落ちていたジョンを、規定通り54分でFW久保裕一と交代させた。
だが、そこで再びアクシデントが起こる。川戸に続いて、久保も足を痛め、66分で交代せざるを得なくなったのである。指揮官は、久保に代えてFW呉大陸を送り込むと、呉の特徴を活かそうとDFの背後へと走らせたが、意図したパスはつながらず、追加点を奪うことはできなかった。
教訓を活かせなかった悔やまれる失点
予期せぬ事態が続き3枚目のカードを使い切った直後の68分、相模原は同点に追いつかれる。パスワークによりDFがつり出されると、右サイドのスペースを使われ、MF八角大智にクロスを上げられる。ニアで一人つぶれたボールが逆サイドへと流れると、途中出場していたMF菅本岳にフリーで決められた。前節の沼津戦続いて、クロスから逆サイドに走り込まれての失点をGK藤吉皆二朗は悔やむ。
「まず、サイドでボールを奪えれば一番良かったんですけど……前節も逆サイドで首を振れずにやられたシーンがあったので、自分も見るようには意識していたし、チームとしても逆サイドの戻りは意識しようという中でやられてしまった。ただ、今回はニアでウメ(梅井大輝)が触っているし、ダイレ(直接)で打たれているわけではないので、また、そこの守り方に関しては考えていかなければならないですよね」
試合が振り出しに戻った後は、「互いにチャンスもあればピンチもあった」(安永監督)。相模原の好機を挙げれば、試合終了間際の90+5分にカウンターから菊岡が呉に展開し、その折り返しを保﨑がシュートした場面であろう。「コースを狙いすぎた」とは本人のコメントだが、途中出場とはいえ、あの時間帯に左SBである保﨑が、あの位置まで走り込んでいたのは賞賛すべきであろう。
勝ち点3への課題はやはり2点目にある
ただ、3試合連続のドローに終わったチームの課題は明確だ。
2点目をいかにして奪うかである。
まずは指揮官も指摘したように、先制後、「受けに回った」守備がひとつにある。なかなか2点目を奪えないからこそ守勢に回ったとも見えなくはないが、対戦相手である岩渕が「2点目は取られる気はしなかった。守備を固めたなって分かりました」と感じていたように、DFラインが下がり、結果的に全体の距離感が悪くなった。菊岡が端的に原因を説明してくれた。
「前半から行ったり来たりの展開になって、相手に間で受けられて前を向かれるから、DFラインが下がる。それで前の選手も負担が大きくなって、攻撃へのパワー不足につながったかなと思います」
菊岡と並んでプレーしていた徳永も、好機を作れなかったことを問えば、同じコメントが返ってきた。
「押し込まれるシーンが多くて、自分たちのゴール前からカウンター気味に攻めることが多くなって、相手ゴールへの距離が遠かったからシュートシーンも少なかったのかなと思います。それに相手ゴールまで行っても、力が残っていなかったというのがありました」
先制するまで見られたような前線からの連動した守備を90分間完遂するのは難しい。指揮官も「ジョンには体力面のところ、足を止めないというところを向き合ってもらえればと思う」と語ったように、現時点では交代によってそれを維持していくしかないのが現状である。また、チームとしてギアを上げるポイントであり、時間帯を見極めることも重要であろう。前節もその流れを見極められず、畳み掛けることができなかった。そこはチームとして流れの匂いをかぎ取る必要があるだろう。さらには、DFラインを押し上げることも重要だが、後方からのビルドアップの精度を上げる必要もある。簡単に弾き返されれば、2列目や3列目は勇気を持って前に出て行くことはできない。
ヒントは菊岡の言葉に隠されているように思う。
「チームとして攻撃した後、さらに2次攻撃ができていないんですよね。もう少し、相手のコートでプレーする時間を長くする準備だとかは必要だと思います」
キャンプから築き上げてきた攻撃の形はようやく色を出しはじめていたが、川戸に続き、久保も負傷したことで、再び染め直さなければならない状況に立たされている。前節2得点を挙げ、今節も前半は相手に脅威を与えていたジョンが、さらに発憤するのか。それとも「怖さがない」と指揮官に指摘された普光院、徳永ら2列目がゴールの意識を高めるのか。
1−1で引き分けた盛岡戦を終え、ひとつ言えるのは、いかに守備意識を高めようと、アクシデントが起こる可能性もあれば、予期せぬ相手のスーパーなゴールが生まれる可能性もある。2点目を奪えなければ、勝ち点3をつかむのは難しい。指揮官は、選手たちは、その2点目にどのように向き合うのだろうか。