
2016年11月13日13:00KICK OFF@相模原ギオンスタジアム
SC相模原 3−1 藤枝MYFC
[得点]
相模原:17分服部康平、47分岩渕良太、71分飯田涼
藤 枝:75分川島將
|敵将からも祝福された安永監督、待望の初勝利
試合後の記者会見に臨んだ安永聡太郎監督は、喉から手が出るほど欲しかった“指揮官としての初勝利”について、こう語った。
「長い間、ファン、サポーターをはじめ、応援してくださる皆様には、なかなか勝利を届けることができず、今日、やっと(勝利を)届けることができ、ひとつホッとしつつ、選手たちに感謝しているところです」
少し照れくさそうに話したのは、同級生で、S級ライセンスの講習でも一緒だった藤枝MYFCの大石篤人監督が見守っていたからだろう。試合前にも長く談笑する姿が見受けられるなど、二人は旧知の仲だけに、初勝利はさらに格別だったはずだ。安永監督は好敵手へのリスペクトを示しつつ、「3度のメシよりもうれしい」と喜びを表現した。
大石監督は、先に行った自身の記者会見で「友人として、初勝利におめでとうと賛辞を送りたい」と話し、「俺も安永監督の会見に出席しようかな」と語っていたが、本当に記者席に座り、質問までしてしまったところは、アットホームな雰囲気漂うJ3の魅力だろう。
|2トップが追うことで入った守備のスイッチ
リーグ戦6連敗中に加え、安永監督就任後、SC相模原は1分7敗と、クラブ創設9年目にして、かつてない窮地に立たされていた。最後に勝利したのは、7月31日のJ3第19節、福島ユナイテッド戦(1−0)で、気がつけば季節は夏から秋、そして冬に変わろうとしていた。それだけにホーム最終戦となる今節は、SC相模原に関わるすべての人々が、“勝利”の二文字を渇望していた。
前半17分、SC相模原は右CKを得ると、服部康平が頭で合わせて先制に成功する。シーズン途中にFWからDFに転向した背番号18は、「前日のセットプレーの練習で、あそこに入る動きをトライしていたので、うまくいってよかったです」と、今季初得点に喜びを噛みしめた。
3−5−2システムで臨んだSC相模原は、2トップを務める岩渕良太と普光院誠が、とにかく走り、前線からプレスを掛け続けた。その動きに合わせて、2列目の菊岡拓朗、飯田涼、さらにはウイングバックの保﨑淳、牧内慶太が連動していく。第26節の鹿児島ユナイテッド戦から取り入れはじめた自陣で守備陣形をセットし、連動した動きで相手を追い込んで行く戦い方は、連敗を重ねていた中でも試行錯誤を繰り返しながら、徐々に“答え”に辿り着こうとしていた。
試合後、安永監督が、その過程を説明した。
「なぜ選手たちが走れない時期があったのかというと、僕の戦術としてのやり方を揃えてあげられなかったことがあった。(就任当初は)個人戦術、グループ戦術に特化していて、それを全体の絵として判断してくれということしかやっていなかった。そこで走りたいけど、どう走ったらいいのかというところで迷いを与えてしまっていた。(鹿児島戦を終えて)チームとしての軸を与え、そのあとに、個々の判断を求めたほうがいいということを強く感じ、FC東京U−23、ブラウブリッツ秋田、藤枝戦とバランスを見ながらやってきた。そして今日、両足をつった選手がいるということを考えると、選手たちは走れなかったのではなく、走り方が分からなかったということを強く感じています」
守備のスイッチを入れる場所、役割が具体的になったことで、攻守両面でチームとしての連動性が、より発揮されるようになっていった。前線から相手を追いかけ、サイドに追い込んでいく岩渕、普光院の姿はその象徴であり、見ているこちらが90分持たないのではと心配してしまうほどに献身的だった。岩渕が話す。
「僕とマコトのところから守備をはじめて、後ろが狙いを定めて行くところはうまくいったと思う。前半が終わって、交代したほうがいいのかなって思うくらいハアハア言っていたんですけどね」
普光院も同様に走り切ることの重要性を語ってくれた。
「何回か相手のボールを奪えたり、相手DFのミスを誘えたところもあったので、そこはよかったですね」
|追加点に、終了間際の失点という課題を乗り越えた
前半を1−0で折り返せたのは大きかったが、チームの課題はその先にあった。2点目が奪えないことに加え、これまで後半30分過ぎ、さらに言えば試合終了間際の失点が多かったからだ。ただし、この日の選手たちは違った。岩渕が再び振り返る。
「正直、(前半は)攻撃にパワーを使い切れていなかったんですけど、ハーフタイムに気持ちをリセットして、後半、景色も変わって気分よく入れたことが良かったのかな」
後半2分、SC相模原は、右CKの流れから菊岡が再びクロスを入れると、岩渕がヘディングで合わせて追加点を奪取したのである。
2点目を決めてもなお、攻撃の手を緩めなかったSC相模原は、後半26分に試合を決める3点目を奪って見せる。それも、流れの中から——。
牧内が右サイドでボールを奪うと、前線の普光院に預ける。そのままDFの裏に走り込んだ牧内は、普光院からのスルーパスをスペースで受けるとクロスを入れた。
「うまくはまりましたよね。涼にはハーフタイムに、『マイナスにボールを上げるから見ていてくれ』って話していたんです」とは牧内。
飯田も「前半からあの位置が空いていることは分かっていた。とにかくボールがよかったですよね」と話す。
前半終了間際に決定機を外していた飯田だったが、牧内からのクロスを、今度は正確に右足で合わせると、ゴールネットを揺らした。また、牧内にとっては、これが今季ホーム最終戦にして初のアシストでもあった。
後半30分には1点を返され、不安が脳裏を過ぎったが、2点のリードに加えて、戦い方が明確だったチームは崩れなかった。途中出場した深井正樹も前線からボールをチェイスし続け、課題だった試合終了間際になってもチームの守備力は落ちることはなかった。
北原が足をつり途中交代したように、普光院もまた両足をつりながら走り続けた。保﨑や坂井洋平、工藤祐生と、ピッチに立った全員が“とにかく”戦っていた。
試合途中に相手選手と接触し、喉を痛めた工藤が、ガラガラに枯れた声を振り絞って話してくれた。
「一人ひとりが戦った結果……ですよね。セットプレーから、今シーズン得点が取れていなかったけど、今日は取ることができた。前半からセカンドボールも拾えていたし……本当に一人ひとりが戦うことで追加点も奪えた。失点はいらなかったけど、いい形で、ホーム最後戦を終われて……良かったです」
|勝利の余韻に浸るも、選手全員が満身創痍だった
まさに満身創痍だった。安永監督は就任当初、チームの指針として「試合終了の笛がなったとき、選手全員がピッチにぶっ倒れるくらい走ってほしい」と話していた。
だから筆者は、3−1での勝利が決まった瞬間、選手たちの姿に目を凝らした。精根尽きていても、久々の勝利だっただけに、余韻に浸りたかったのだろう。両拳を握りしめている選手のほうが多かった。それでも6人が膝に手を当て、倒れそうな自分を支えていた。途中交代を考えれば、ほぼ全員だったのではないだろうか。SC相模原は、安永監督は、ホーム最終戦で、ひとつの結果とひとつの形を見つけたのである。
試合後、選手たちの顔は清々しく、チーム関係者やボランティアスタッフ、すれ違うすべての人がにこやかな表情を浮かべていた。これほどに勝利は、人を笑顔にするのか。改めて、そう感じずにはいられなかった。
歓喜や苦悩——そのすべてを見届けてくれた相模原ギオンスタジアムの清掃を終えた選手たちが帰るとき、保﨑が記者室を覗くとこう言った。
「今日はバッチリだよね。記事、書きやすいでしょ?」
筆者は振り返ると、親指を立てて、笑顔で頷いた。
眩しいくらいの月夜に照らされたスタジアムで、牧内の言葉がよみがえった。
「ようやくチームとして前進することができた。半歩かもしれないけど。これを継続していくことで、僕たちにとっても今後につながっていく」
このメンバーで戦えるのは、残り1試合である。