
2016年7月31日15:00KICK OFF@相模原ギオンスタジアム
SC相模原 1−0 福島ユナイテッド
[得点]
相模原:44分深井正樹
福 島:—
|均衡を破ったのはホーム初ゴールの深井正樹
急激に降った雨が嘘のように、試合前になると相模原ギオンスタジアムには夏空が広がっていた。まるでSC相模原のサッカーに光りが射していることを示すかのように、前半途中にはバックスタンド越しに虹が架かっていた。
7月31日、J3第19節を戦ったSC相模原は、ホームに福島ユナイテッドを迎えた。4−2−3−1システムには、この夏に加わった新戦力たちが次々と名を連ねた。1トップは近藤祐介、トップ下をシンバが務め、両脇を深井正樹と飯田涼が担う。ボランチには攻撃の芽を摘むことのできるトロと、ゲームメイクができる菊岡拓朗が入り、最終ラインには右から岩渕良太、工藤祐生、赤井秀行、石川大徳が並んだ。
「それほど試合の入りというか、立ち上がりは悪くなかった」と深井が振り返ったように、SC相模原は自分たちの意図するサッカーをピッチで体現した。後方からボールをつないで攻撃を組み立てていくと、5分には右からのパスを近藤がシュート。8分にもその近藤がシンバへと展開すると好機を作り出した。
29分には、深井がチャンスを迎える。相手GKのスローインをシンバがカットすると、深井へパス。深井はGKと一対一になるが、この決定的なシュートを決めきれずに逃してしまった。
徐々に相手も盛り返し、押し込まれる状況が増えてくる。消極的なプレーが多くなっていることを見かねたGK川口能活からは「(前に)運べ!」との声が響き渡った。そうした悪い流れを打ち破ったのは、29分のチャンスを不意にしていた深井だった。
前半終了間際の44分、石川からのパスを受けた深井は、左サイドから1人、2人と交わして中に切れ込むと、右足を振り抜く。右スミへと巻くように放たれたシュートはゴールネットを揺らし、均衡を破った。
|近藤祐介の踏ん張りがチーム全体を押し上げた
利いていたのは、前線で身体を張り、チーム全体が押し上げる時間を作っていた近藤だった。CBやボランチから、次々に近藤へと縦パスが入る。そこで1トップが耐え、キープすることで、2列目だけでなくボランチやSBもが押し上げることができていた。
そして、近藤のポストプレーから、シンバや飯田が仕掛ける。ここで2列目が手詰まりになったとしても、全体が押し上げられているから、菊岡がパスを受けて逆サイドに展開できる。そこで攻撃参加するのはSBである。高い位置を取れているからこそ、攻撃に加わることができ、かつ、そこからのクロスやグラウンダーのパスに対しても1人ではなく、数人がゴール前に飛び込めていた。
CBとしてここまで全18試合に出場している工藤が、近藤の貢献度を言葉にする。
「祐介さんが前線でボールを収めてくれるのは本当に大きい。サツさん(薩川了洋監督)もミーティングで言っていたんですけど、祐介さんが3秒ボールを収めてくれれば、全体的に20mは押し上げられる。それが1秒だと、サポートにも行けないし、後ろの選手は追い越すこともできない。祐介さんが前線で身体を張ってタメてくれるのは、ひとつの攻撃パターンになると思う。後ろとしても、困ったときには祐介さんを見ればいいですからね。それだけでも大きいですよ」
攻撃に迫力をもたらすカギを握っているSBの石川も前線のがんばりを讃える。
「近ちゃん(近藤)が耐えてくれるのはでかい。彼がキープしてくれると信じているから、後ろは信頼して上がっていける」
相手を自陣に引き込み、ボールを奪うと前線に当てて、そこから全体を押し上げる。2列目、3列目、さらには両SBが絡むことで攻撃には迫力が出る。うっすらと虹が架かったスタジアムでは、これまで朧気だった薩川監督が目指すサッカーが、はっきりとした形となって表れていた。
まるで水を得た魚のように飯田は持ち前のドリブルで好機を作り出していた。これまでより1列下がったところからゲームメイクする菊岡は、類い稀なるパスセンスによってチームを、ゲームを、コントロールしていた。
得点には至らなかったが、54分と65分のプレーを挙げたい。54分は、工藤から右SBの岩渕につなぐと、シンバへと縦パスが入った。シンバが素早く右サイドに送ると、飯田がドリブルで縦に突破。折り返したクロスは飛び込んだ近藤には、わずかに合わなかったが、流れるような攻撃だった。65分は、縦パスを受けた近藤が今度は左SBの石川に展開。石川がやはりドリブルで縦に突破を図り、折り返したパスには数人が飛び込んでいた。
|選手たちが課題に挙げた連係や精度は向上していく
相手が長身選手を投入してパワープレーに打って出てきた試合終盤には、服部康平をCBに加えた3バックにシステムを変更して、相手の攻撃を跳ね返した。幾度もチャンスを作りながら、結果的に今季の必勝パターンである「ウノゼロ(1−0)」による勝利だったことは課題だが、2点目、3点目が奪えるだけの攻撃と、その可能性を示した試合だったと言えるだろう。
「(前線で身体を張り続けたので)疲れました」と語った近藤は、「(自分の)足下にボールを収めても、それほどミスはなかったので、これを続けていければと思う。毎試合、これくらいできれば、後ろも信じて上がってきてくれるかなと」と、手応えを噛みしめていた。
ただし、この試合、唯一の歓喜は深井の個人技による得点だった。それもあり選手たちは次々に課題を口にしている。
「2人、3人が絡んでシュートにいくような形は、新たに5人くらいは選手も加わって入れ替わっているので、作り直さなければいけない。そこはまだ試行錯誤していますね。後半は、このパスが通っていれば、このパスの選択がこっちだったら得点につながっていた場面もあった。自分自身もそうですけど、あのシュートを外しているようだとゲームはどっちに転ぶか分からなくなる。しっかり決められるようにやっていきたい」(深井)
近藤も同様だ。
「後半の、特に終わりころで決められれば後ろも楽になるし、1点では事故のような形で入ってしまう可能性はある。だから、2点目をしっかり決めないと」
「勝って兜の緒を締めよ」ではないが、手応えを感じているからこそ、選手たちは、さらなる向上心を示している。深井が語ったように、試合中には、お互いの意図が合わずに、ミスにつながったり、パスがずれたりする場面もあった。ただ、その連係に関しても試合を重ねれば重ねるほどに噛み合ってくることだろう。今より悪化することはなく、確実に改善されていくはずだ。
第11節のガイナーレ鳥取戦以来、約2カ月ぶりのホームでの勝利だっただけに、選手たちの声はポジティブだった。何より勝利こそが自信になることを今一度、実感しているだろう。だからこそ次はやはり第11節以来となる連勝を期待したい。射した光りをより強い輝きにするために。