サガミスタが新たなサガミスタを生めば、スタジアムの熱量も活気もさらに高まる──。
今シーズン、SC相模原は「サガミスタ倍増計画」を一大プロジェクトとして掲げている。
奇しくも同じ考えを、この計画がスタートする前から持つ方たちがいた。
スポンサー企業の朝日建設株式会社で務めている大空正樹さん、相模原市内の小学校で教員をしている荒木真人さんと相模原市内の小学生・宮澤貫太くんはサガミスタを増やそうと以前から精力的に活動している。
どうして、自ら進んでサガミスタを増やそうとしているのか。立場も年齢も異なる3人に、SC相模原の魅力、サガミスタ倍増計画を実現させた先に期待していることを聞いた。
チームは身近な存在で、選手も優しくて接しやすい
──最初に、自己紹介とサガミスタ歴を教えてください。
大空 朝日建設株式会社で働いている大空正樹と言います。会社がスポンサーをやっているのですが、その前からチームのことが気になっていて、サガミスタ歴は2011年からですね。クラブがまだJFLに昇格する前から応援しています。
荒木 相模原市立富士見小学校で教員をしている荒木真人と申します。サガミスタ歴は2018年からで、川口能活選手のラストゲームで超満員のギオンスに魅了されたことがきっかけでハマっています。今は小学校の下校時にあいさつ運動をするなどして、関わらせてもらっています。
宮澤 宮澤貫太、小学6年生です。2021年に弟がギオンス(相模原ギオンスタジアム)で幼稚園の鼓笛隊の演奏をすることになって、その時に行われたアルビレックス新潟戦がきっかけでした。試合は逆転したり追いつかれたりで、すごくおもしろかったのとスタグルがおいしかったことで、SC相模原に興味が沸きました。次の週から元々試合を観に来ていた友達家族と行くようになって、それからホームゲームは皆勤賞です。
荒木 すごいですね!
大空 相模原の試合を初めて観に行ったきっかけは、会社で「地元のスポーツチームを応援しよう」という話があったからですね。スポンサーをやった方がいいのかどうか判断するために見にいってくれと頼まれて観戦しにいってみたのですが、当時はまだベンチがなくてパイプ椅子にスタッフや控えの選手が座っているような環境でもチームが抜群に強くて応援している人がアマチュアのカテゴリーなのに多かったことを今でも覚えています。近くにこれほど盛り上がりを見せている場所があるんだっていう印象を抱いて、社長にも「絶対にスポンサーをした方がいいです」と報告しました。
荒木 僕が初めて相模原の試合を観に行ったのは、仕事の先輩に誘われたからでした。2018年6月23日に長男と一緒に行って、その日は雨が降っていて、なにもこんな日に行かなくてもって思った記憶があります(笑)。でもスタジアムに行ってみたらすごく楽しかったのでハマりました。当時はコロナ前で試合が終わると選手たちとハイタッチができましたし、スタンドからゴール裏に移動してファミリアを踊れたこともよかったですね。しばらくしてからは「ファミリアのために移動しなくても、最初からここにいればいいじゃん」と思ってずっとゴール裏にいます。あと実は(鈴木)淳くんが中学の時の同級生で、SC相模原で選手になったことは聞いていました。当時はトップ下やボランチでプレーしていて抜群にうまかったのですが、今はスタッフとして地元に戻ってきてくれて嬉しかったですね。
──荒木さんのように、大空さんと貫太くんが何度も通うようになったきっかけはなにかありますか?
大空 会社がスポンサーになったことが一番のきっかけですけど、チームと一緒に成長していきたいなという気持ちと、あとは担当として試合を観て会社の人にクラブの様子を知らせる役割だったからですね。学生時代はサッカー部じゃなくて卓球部でしたけど(笑)、兄と弟がサッカーをしていて身近な存在としてありましたし、職場の近くで試合を観られるということでハマりました。
宮澤 僕はYouTubeで今までの試合のハイライトを見ていたらサッカーのルールや魅力さが分かるようになってきて、見れば見るほど楽しくなっていったからです。公開練習の時、選手がとても優しく話してくれるので、選手のことをもっと好きになりました。あとはいろんな大人の人とも触れ合って友達になっていったことも楽しかったので何度も通うようになりました。
──サガミスタ歴が異なる3人ですが、見てきた中で一番印象深かった試合はなんでしょうか?
宮澤 J2の時の4-4で引き分けた水戸ホーリーホック戦は点がたくさん入っておもしろかった。あの試合で(2ゴールを決めた児玉)駿斗選手が好きになって、そこからもっとハマりました。
大空 最後の最後に勝ち越されたけど、その後に児玉選手が同点ゴールを決めたもんね。
宮澤 4点目を入れられた時はもう無理かなって思っちゃいました。児玉選手と安藤翼選手のサッカークリニックにも参加して、すごく優しく教えてくれて、ボールを蹴ることもすごく楽しかったですし、それでSC相模原のスクールにも通うようになりました。
荒木 僕もJ2の時の試合でその時も雨でしたけど(笑)、逆転勝利した大宮アルディージャ戦が印象深いですね。逆転ゴールを決めた藤本淳吾選手がボールパーソンを務めていたジュニアユースの子たちと抱き合っていた光景を鮮明に覚えています。あと、試合ではないですけどファン感謝祭で三浦(文丈)監督が息子と会場の端でPK対決をしてくれて、そういうところがすごくいいなと思いました。
大空 私はJ2の昇格が決まった2020年の最終節・FC今治戦が圧倒的で、愛媛まで車を運転して行ってよかったと思える試合でした。ホーム最終戦のブラウブリッツ秋田戦で引き分けて、昇格ムードがほとんど消えてしまった状況でした。それでも「今シーズンの戦いを最後まで見届けたい」という気持ちで、四国へ観光とサッカー観戦もしてみたいという娘と車中泊をしながら行ってきました。
宮澤 車で!? すごっ!
大空 アウェイの席が限られていたので、試合は今治のサポーターさんに囲まれながら身を隠すようにしてスタンドから見ていました(笑)。試合に勝って昇格が決まって周りの今治サポーターの方たちから「おめでとう!」という声をかけてもらって涙が出てきて……。そのまま相模原のゴール裏に行って、そこで泣きながら歩いてきた神奈川新聞の記者さんに取材をしてもらったことは思い出ですね。娘にとっては初めてのサッカー観戦でしたけど父親は泣いているし、すごい状況だったと思います(笑)。
接点があればスタジアムにも行ってみたくなる
──SC相模原ならではの魅力はどんなところに感じますか?
宮澤 選手やコーチ、サガミスタもみんな優しい。ガチャガチャを回した時はなにが出たかみんなと話せるし、お互いがほしいものを交換してもらえる。サガミスタ同士の仲が良いところが魅力だと思います。
大空 貫太くんは小学生だけど顔が広いよね。
宮澤 あとはスタグルがどれを食べてもおいしいし、グッズがかわいい。今はガミティ巾着を愛用しています。
荒木 ガミティの特大のぬいぐるみも持ってる?
宮澤 はい。ソファの半分を占拠しそうなぐらいの大きさです(笑)。
荒木 すごく大きいですからね(笑)。SC相模原の魅力は、応援が楽しいことや、貫太くんが言うようにスタグルが充実していておいしいこともそうですし、スタジアムの外周エリアが毎試合お祭りみたいな雰囲気が出ていますよね。あとは選手との距離の近さを感じます。選手が学校やスクールにも来てくれて、チームのことを知らなかった子でも触れ合えますし、サッカーをやっている僕の息子にとってもあこがれの存在でいてくれます。
大空 そういった優しい空気はこのチームならではですよね。ヤジが少ないですし、負けてもサポーターが怒らない。そのずっと変わらない雰囲気はすごくいいですね。
荒木 家族や初めて観戦するという人を、安心してスタジアムに誘えますよね。
大空 そうですね。この前、ルヴァンカップのザスパ群馬戦を観に行って延長戦で負けてしまいましたけど、サガミスタのみんなは「よくやった」と言っていて、そこに感動しました。ここ数年は勝つ試合の方が少ないですけど、この雰囲気はずっと変わらないですね。
──そんなSC相模原のことを、みなさんはそれぞれの立場でどのようにして広めているのでしょうか?
大空 私は会社がスポンサーをやっている、ある意味で利点もあります。選手には、公民館のイベントや子どもが通う中学校に来ていただいたりして、そうした活動で身近に感じてもらえればいいなと思って動いています。選手を生で見ることで「試合にも行ってみたいね」という声が増えているのですが、まずは試合観戦に来てもらって、その上でイベントをやってみようかとも考えています。あと、会社の観にいってみたいという社員に、「一緒に行きましょうか」と声をかけてスタジアムに連れていったり、ユニフォームを配ってみるといった地道な活動もしています。
──その中からコアなファンになった社員さんもいますか?
大空 はい。その社員の方が周りにも声をかけてくれますし、息子さんが相模原の育成組織に入ったと聞きました。そういった輪が自然発生的にどんどん増えていったらいいなと思っています。今年はイベントを協賛させていただく試合の時など、97人の社員全員が一回はスタジアムに来てくれることを目標に掲げてやっています。
──荒木さんは、教員という立場でどんな活動をされていますか?
荒木 一昨年、5年生の担任をしていた時は総合的な学習の一環として「SC相模原のホームゲームの来場者を増やそう」というテーマの授業を行いました。
大空 2年前からサガミスタ倍増計画を進めていたんですね(笑)。
荒木 そうなりますね(笑)。それで広報の高佐(華子)さんにも協力してもらって、『SC相模原ガミガミ祭り』を体育館で2日間にわたって開催しました。クラブのパネルを借りてキックターゲットをやったり、鈴木淳くんに協力してもらって「元選手にインタビュー」といった取り組みをやらせてもらいました。それを境に毎試合、家族で来てくれるようになったり、子どもたちとスポンサーさんを見つけてバスを一台借りてホームゲームのバスツアーをやったりしました。
宮澤 すごい……。
荒木 それをきっかけにチームのことを魅力に感じて、試合に来てくれる子たちも増えたことは大きいなと思っています。
宮澤 「ガミガミ祭り」っていう名前もおもしろいです。
荒木 それも子どもたちが考えてくれたんですけど、彼らの力は偉大ですね。今では「先生、昨日スタジアムにいたでしょ?」っていう話から「昨日の試合はおもしろかったよね」というコミュニケーションも増えてきました。
──貫太くんは、小学校でどんな活動をしているんですか?
宮澤 学校にユニフォームやグッズを着けて行ったり、友だちに試合結果を教えたりしています。学校にSC相模原のチラシが配られた時は、こどもフリーパスがあるよってスタジアムに誘ってみたりしました。あと、春休みに友だちに声をかけて一緒に公開練習にも行ったりして、チームのことを知らなかった子も今では興味をもってくれるようになりました。(子どもが考えたランチメニューをスタグルとして再現する企画)ドリームランチで「カツテンサンドボックス」と「松竹梅がんばれ弁当」を考えて、それが2回中2回採用されることもありました。
大空 実際に売られて、すぐ完売したよね。
宮澤 自分の考えたお弁当が売られるって友だちに教えて来てもらいました。スタグルが大好きなので、自分の考えたものをいろんな人に実際に買ってもらって食べてもらえたことは嬉しかったです。
スタグルや応援の雰囲気も楽しめる要素
──クラブのことをそれぞれの場所ですでに広めてもらっていますが、サガミスタ倍増計画が発表されて、こんなことをした方がいいんじゃないかというのは?
宮澤 友達にどんどん広めて、それを家族に知らせてもらってということを繰り返したら増えていくと思います。僕がチームのことを教えて、知るきっかけになればいいなと思います。ギオンスは僕にとって、“もう一つの学校”のような場所ですけど、そこにクラスのみんなが来てくれたら、もっと楽しい場所になるなって思います。
大空 本社が淵野辺で、周りに商店街があるんですけど、そういった地元の人たちが集まる場に選手が来たらサガミスタが増えてくるんじゃないかという感覚があります。サッカー選手ですから、なんとなく声をかけちゃいけないのかなとか、敷居が高いんじゃないかという思い違いがあるように感じています。会社でイベントを開催して選手に来てもらうなどして、興味を持ってもらえたらサガミスタが増えていくんじゃないかなと思っています。あとは勝負事ですけど、試合に勝って優勝争いに絡んでくればそれだけで見にいってみようと思う人も出てくると思うので、その両方が合わさったらいいですよね。
荒木 僕はSC相模原を街の魅力としてつなげていきたいと思っています。「相模原って、なにもない場所だよね」と言われることが地元出身として悔しくて、サガミスタが増えて活気づくことで、そのイメージを変えていきたいし、それができれば街のためにもなるのかなと思います。
大空 2018年の川口能活選手の現役ラストゲームの時は、ギオンスに12,000人以上のお客さんが入ったこともありましたからね。
荒木 そうですね。あれが日常になったら、とんでもない文化になると思います。もちろん、川口選手が元日本代表選手だったからとか、いろいろな背景があったからだとは思いますけど、あれだけのお客さんが入るポテンシャルを秘めていることは証明されています。選手が学校に来て子どもたちに挨拶運動をしてくれたり、接してくれることで試合を観にいこうとする人たちが増えていくんじゃないかと思っています。
──それぞれの場所でサガミスタが増えていけば、街がSCSグリーンに染まっていきそうですね。では最後に、今後SC相模原に期待したいことや、スタジアムに行ってみたいけど迷っているという人に向けてのメッセージをいただけますか?
大空 チームが掲げている目標に向かって、我々も一緒に喜んだり、時には一緒に悔しい思いをするということを繰り返していきたいなと思います。あとは戸田和幸監督が通っていた学校に今は娘が通っていて身近な存在でもあります。私もそこでPTAをやっているのですが、そこからでも巻き込んでいきたいですし、「一回来たら絶対にファンになる」とみんな言うので、試合以外にもスタグルや応援の雰囲気を楽しむためにも会場に来てもらえたらなと思います。
荒木 僕としては、チームに強くなることと愛されることの両輪で取り組んでほしいと思っています。僕の中で一つ夢があって、ジュビロ磐田が磐田市内の6年生全員が試合を観に来るという、「小学生一斉観戦授業」をここでもやりたいなと思っているんです。
宮澤 おもしろそう! あったら僕も参加してみたい!
荒木 そうだよね! メイスンスタンドが小学生で埋まるような雰囲気作りをしたい。他の事例で言うと川崎フロンターレは計算ドリルを作って配布していたりして、そういうお手伝いを自分ができたらと思っています。SC相模原が日常に溶け込んでいくような取り組みを自分も一緒にしていきたいですね。
宮澤 サガミスタがどんどん増えていけば応援の声が大きくなっていきますし、そうなれば選手たちはもっと頑張れるし、J2やJ1にも行けるようになると思っています。そのためにも、僕も友達をどんどん誘っていきたいと思います。自分も少しずつ大人になっていくけど、たくさんの人と一緒に、ずっとずっと応援していけるチームになっていってほしいです。