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03-05-2021

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KITAKEN MATCHREPORT Vol.40 『俺たちは、やれる!』

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KITAKEN MATCHREPORT Vol.40
vs 京都サンガF.C.
『俺たちは、やれる!』

 開幕戦はいつだって特別なものだ。新たなシーズンへの期待感に胸を膨らませ、キッチンカーから放たれる匂いにそそられ、久しぶりに会った仲間との会話を楽しむ。今年もSC相模原のある生活が帰ってきた。

 ただ、SC相模原にとって14回目となる開幕戦はいつもとは違う意味を持っていた。2020年12月20日、J3最終節でFC今治に勝って最終順位2位になったチームは初めてJ2に参戦する。

 昨シーズンが降格なしだったため、今シーズンのJ2は下位4チームが降格する。三浦文丈監督はシーズン開幕前に「勝ち点50」を目標に掲げた。予算規模でもネームバリューでも自分たちを上回る相手ばかりだが、それでも勝ち点を積み上げなければJ2残留はできない。

 開幕戦の相手は京都サンガF.C.。2020シーズンのJ2得点王のピーター・ウタカなどJ2でも有数のタレントを抱えるチームは、元湘南ベルマーレの曺貴裁監督を新たに招聘してJ1昇格を目指している。

「とにかく立ち向かっていこう」

 試合前のロッカールームで三浦監督はそう鼓舞したという。お互いの力関係からすれば守備の時間が長くなるのは仕方がない。ただ、自分たちのホームで腰が引けたような試合をするのはやめよう、と。

 その言葉通り、相模原の選手たちは開幕戦で“巨人”を相手に堂々と立ち向かっていった。GKアジェノールとDFエドゥアルド・クンデは入国できておらず、契約更新が遅れたFWホムロも合流から時間が短くコンディションが整わなかった。浦和レッズとの練習試合でインパクトを残したFWユーリ、新戦力ながらキャプテンを任されたDF鎌田次郎はどちらも怪我でベンチから外れた。

 スタメンはGKが竹重安希彦、DFは川上竜、後藤圭太、梅井大輝の3バック、両ワイドは右が石田崚真、左が星広太、中盤はアンカーに梅鉢貴秀、インサイドハーフに清原翔平と藤本淳吾、2トップには和田昌士と平松宗が並んだ。

「ん?」と思ったのはキックオフの時だ。この日の相模原ギオンスタジアムにはメインスタンドから見て右から左に強い風が吹いていた。明確に風上と風下に分かれる場合、サッカーではコイントスに勝ったチームは風上をとる。

 だが、京都はあえて風下になるサイドを選んだ。曺監督はセオリーと異なる選択を理由を試合後に説明した。「攻め焦らないように、悪い意味でバタバタしないようにという意図で、風下を選びました」。

 後半勝負――。曺監督は「後半のアディショナルタイムが近づくほどエネルギーが増していくチームにしたい」と思っているという。それは最も危険な選手であるピーター・ウタカをスタメンで使ってこなかったことからもうかがえた。

 相模原は粘り強く、我慢強く戦うという、昨シーズンのベースを踏襲したサッカーを見せた。守備時には5バックと3MFでブロックを作って、相手の攻撃を跳ね返す。ボールを奪ったら、前線の平松にロングボールを入れて、こぼれ球にもう1人のFW和田やシャドーやウイングバックが絡んでいく。

「ボールを奪った時に2トップがディフェンスと2対2になるので、相手のサイドバックが上がったスペースをうまく使えるようにという話をしていました」(藤本)

 京都は攻撃時にサイドバックが高い位置をとるため最終ラインが“2バック”になることが多い。そのため、相模原としては相手からボールを奪った時に、プレスをかいくぐって前線の2トップにボールを入れて、数的同数でのカウンターを狙っていた。

 前半のシュート数は相模原が5本、京都が4本と上回った。ゴールは決められなかったものもの、何度か見せ場も作った。初めてのJ2といえども、決して戦えていないわけではない。

 ただ、後半は風下になったこともあって完全に防戦一方に。ロングボールを蹴っても風で押し戻されてしまうため、なかなかハーフラインを超えることができない。すると、風上に立った京都が徐々に圧力を強めてきた。

 56分、李忠成OUT、ピーター・ウタカIN。ウタカはCFでありながら自由に動き回ってボールを触る。
「彼が出ることでうちのディフェンス陣は気を使わないといけなくなってくる。彼にボールが収まるとそこに対応して、プレスバックをしてと2人とか3人(がマークに)かかる分、周りが空いてきたかと感じました」(三浦監督)。

 どちらにもゴールが生まれないまま80分を過ぎる。勝ちたいけれども、優勝候補の京都に引き分ければ、決して悪い結果ではない――。試合が動いたのは、勝ち点1が現実的になってきた矢先だった。

 82分、コーナーキックから186センチのセンターバック、ヨルディ・バイスに決められてしまう。その3分後には、途中出場の三沢直人の30メートルの位置からロングシュートを打たれる。風に乗って伸びたシュートはGK竹重の手を弾いてゴールネットに突き刺さった。

 0-2。相模原にとって初のJ2は黒星という結果になった。

 京都は強かった。エースのウタカを温存してきたのも、あえて風下を選んだのも、後半になればなるほど地力の差が出てくると思っていたからだろう。だからこそ相模原としては体力的にフレッシュな、それでいて風上だった前半にゴールがほしかった。

 相模原は勝てなかった。だが、ピッチに立っていた選手も、スタジアムやDAZNで見守っていたファン・サポーターも「やれる」という手応えを感じたのではないか。J2昇格の要因となった強固な守備は少なくとも80分までは京都の攻撃を抑えられていた。

 もちろん、藤本が「一つひとつのプレーの精度だったりパスの質、クロスの質、あとはカウンターの強度といったところをやっていくしかない」と話したように、攻撃のクオリティーを上げていく必要があるのは間違いない。

「俺たちは、強い!」とは今はまだ言えない。それでも「俺たちは、やれる!」という手応えを感じられたJ2初戦だった。



取材・文 北健一郎(SC相模原オフィシャルライター)