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12-21-2020

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KITAKEN MATCHREPORT Vol.39 『夢をつかんだ90分』

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KITAKEN MATCHREPORT Vol.39
vs FC今治
『夢をつかんだ90分』


最終戦を迎えるにあたって、個人的に思い出したことがあった。

「夢と絶望の90分。」

2015年に行われたJ1昇格プレーオフ決勝のポスターのキャッチコピーだ。

13時キックオフされるFC今治戦が終わった後、SC相模原を待ち受けているのは、果たしてどちらなのかーー。

夢をつかむ可能性は決して高いとはいえなかった。第33節でブラウブリッツ秋田と1-1で引き分けたSC相模原は、3位で最終節を迎えていた。FC今治に勝ったとしても、2位のAC長野パルセイロが勝てば長野が昇格する。

それでも、SC相模原に関わる人間で諦めているのは誰一人としていなかった。監督や選手だけではない。SNSではホーム最終戦セレモニーでの監督とキャプテンの言葉を引用した「俺たちは諦めが悪いサポーターだから」という投稿があふれていた。

どんな時でも前向きに、全力で楽しむ――
SC相模原はやっぱり SC相模原だった。

元日本代表監督の岡田武史氏がオーナーを務めるFC今治は、JFLから昇格1年目ながらJ2昇格争いに食い込んできた。すでに昇格の可能性は消滅したものの、ホーム最終戦を勝利で終えたいと強い気持ちで挑んでくるのは間違いない。

三浦文丈監督が試合前のロッカールームで2つのことを強調したという。

「とにかく粘り強くやろう」

「攻守の切り替えを速くしよう」

J3の中で突出した戦力を誇るわけではないSC相模原が、最終戦まで18試合無敗という驚異的な数字を残せたのは、勝負の“際”にこだわってきたからだった。あと1センチ寄せられるか、危険な場面で体を投げ出せるか、最後までやりきれるか。

就任1年目の昨シーズン、15位という不本意な成績に終わったのは、そうしたところを強調しきれなかったからだという思いがあった。だから、今シーズンは「もしかしたら、またかよって思ってる選手もいるんじゃないか」というぐらい、しつこく言い続けてきた。

今治戦はまさしく2020年のSC相模原の集大成と言える試合になった。

先手を取ったのはSC相模原だ。16分、藤本淳吾がDFラインの背後に狙いすましたロングパスを送る。ホムロは浮き球をワンバウンドさせてから、ダイレクトボレーを右上にたたき込んだ。エースの4試合ぶりのゴールという理想的な入りを見せた。

だが、先制直後にすぐさまピンチが訪れる。17分、フリーキックのこぼれ球がフリーになっていた相手選手の元へ。誤解を恐れずに言えば、10回あれば9回は決まるぐらいの決定的なものだった。

だが、SC相模原のゴールにはビクトルがいた。ありえないようなピンチを止めてきた守護神がいた。ビクトルの神セーブがなければ、試合展開は変わっていただろう。

粘り強く守りながらカウンターから追加点を狙っていく SC相模原。35分、左サイドを星広太が1対1で仕掛けてクロス、ゴール前に走り込んだ鹿沼直生が頭で合わせるも枠をとらえきれず。38分、梅井大輝のライナー性のクロスをファーで富澤清太郎がとらえるが外れてしまう。

試合が再び動いたのは、後半の立ち上がりだった。47分、星がカットインから放ったシュートのこぼれを才藤龍治が拾ってヒールパス。「すごい打ちやすいボールだった」という梅鉢貴秀が、コースを狙ったシュートがゴールに吸い込まれる。

「まさか入れるとは思いませんでした」

三浦監督が冗談交じりに明かしたように、梅鉢がゴールを決めると予想する人はチーム内にも多くなかった。「バチのシュートは入らんからな〜」とネタにされていたムードメーカーは「見とけよ」と思っていたという。

そして、今季1点目となった第30節のガイナーレ鳥取戦に続いて、シーズン終盤の極めて大事な場面で、極めて鮮やかなゴールを決めてみせた。地を這うような弾道はまるで、本人が憧れの選手に挙げるスティーブン・ジェラードのようですらあった。

64分、今治にセットプレーから失点を喫して1点差に。SC相模原がJ2に昇格するための最低条件は勝ち点3だ。もう1点とられたら一気に厳しい状況になる。

三浦監督は57分に和田昌士、69分に清原翔平とアタッカーを送り込む。1トップの和田はがむしゃらにボールを追いかけ続けた。清原はベテランらしいボールキープで時計の針を進めた。

「自分自身が持っているものを全て出して、絶対に止めるという思いでした。みんなもそうだったと思います」

富澤が振り返ったように、ピッチ上の選手たちは自分の役割を全うし続けた。声を掛け合い、体を投げ出し、ゴールを守り抜いた。6分というアディショナルタイムが経過した後、タイムアップの笛が鳴った。

「目の前の試合に集中するために他の会場の情報は入れていなかった」

同時刻にキックオフされていたAC長野パルセイロといわてグルージャ盛岡の状況はタイムアップするまで誰も知らなかったという。三浦監督がすぐさま確認する。

「長野、どうなってる?」

一足先に終わっていたゲームで長野が盛岡に0-2で敗れたことが伝えられると、あらゆる場所で歓喜の輪が弾けた。90分を戦い終えた先には、最高の喜びが待っていた。

「ちょっと痺れましたね。本当はダメなんだけど、罰金覚悟でグラウンドに飛び出しちゃった」

そう笑ったのは、ゼロからクラブを立ち上げた望月重良だ。望月代表のもとには試合が終わった瞬間から次々にJ2昇格を祝福するメッセージが届いていた。その中でも望月が特にうれしかったのが、かつてSC相模原に所属した選手や関係者からのものだったという。

「彼らがいたからこそ、今クラブはこういうポジションにいる。今いる選手もそうだけど、今まで携わった選手や関係者にお礼を言いたい」

クラブを立ち上げてから13年間の歩みは別れの繰り返しでもあった。チームのために頑張ってくれた選手に、戦力外を言い渡さなければならない。大幅な選手の入れ替えや、監督交代もあった。

すべては、SC相模原というクラブが上に行くために――。

13年間、ブレなかった信念はこの日、J2昇格という一つの結果になった。だからこそ、望月は感謝している。SC相模原という名前を背負い、それぞれの場所で戦ってきた、すべての人に。

来シーズンからはJ2へとカテゴリーが上がる。「J2昇格はすごくうれしいけれど、あくまでも通過点でしかない」(望月)。SC相模原が目指すものは、まだまだ先にある。次への戦いはもう始まっている。


取材・文 北健一郎(SC相模原オフィシャルライター)