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10-08-2019

 お知らせ 

KITAKEN MATCHREPORT Vol.26『トンネルの先に見えたもの』

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KITAKEN MATCHREPORT Vol.26
vs アスルクラロ沼津
『トンネルの先に見えたもの』

トンネルの先に待っていたのは、最高の景色だった。10月6日に行われたアスルクラロ沼津戦。SC相模原はようやく連敗から脱した。実に、2カ月ぶりに味わう、勝利の味だった。

今日は何かが違う--。そんな空気を察したのは、キックオフから間もなくだった。球際で寄せていく迫力、前に進もうとする勢い。そうしたものが、スタンドにいても伝わってきた。

開始30秒。左サイドの高い位置でボールが外に出ると、梅井大輝が今日1本目のロングスローを入れた。立ち上がりから、リードされた試合の終盤かのようにゴールを目指すのは、今までには見られなかったものだ。

「アグレッシブにやろう」

三浦文丈監督は1週間を通じて働きかけてきた。それほど悪くはない。でも勝てない。5連敗中は、そんなスッキリしない試合の連続だった。決して手を抜いていたわけではないし、バラバラになっていたわけでもなかった。ただ、何がか足りなかった。勝てない状況は、それを見つめ直すきっかけになった。

「相手よりも走る」
「球際で戦う」
「仲間を助ける」

サッカーをする上で、最もシンプルだけれども、最も大切なこと。それを、この日のSC相模原の選手たちは、ピッチ上でしっかりと表現していた。

15分、阿部巧と伊藤大介の見事な連携から阿部が抜けてクロス。右ウイングバックの川上盛司のシュートは弾かれたが、こぼれ球を上米良柊人が詰めた。ギラヴァンツ北九州戦に続く、上米良の2試合連続ゴールで先制に成功する。

まだまだ安心はできない。北九州戦では先制した後に、あっさりと同点に追いつかれ、逆転されている。リードしたことで必要以上に受けに回ってしまい、相手に押し込まれるのではないか。そんな不安が頭をよぎる。ただ、今日はそうはならなかった。

その要因を明かすのは、5カ月ぶりに先発出場した千明聖典だ。

「プレスをかける、プレスバックする、球際で負けないとか、そういう泥臭さ。前線の選手も頑張ってくれていましたし、大介とか、今までで一番走ったんじゃないですか? あいつみたいにうまい選手が走ることによって、周りの選手も頑張ろうってなるんですよ」

千明は開始早々に相手選手から“モモカン”を食らっている。だんだんと痛みが出てきたが、「とにかく行けるところまで行こう」と走り続けた。163センチの小柄なボランチが見せたハードワークは、この日の勝因の一つと言っていい。

2点目が決まったのは、後半の早めの時間だった。54分に訪れた左サイドからのコーナーキック。これまで上米良がキッカーだったが、この時は伊藤に代わっていた。「あのパターンの時だけ、僕が蹴ることになっていたんです」。

“マエストロ”伊藤がファーポストに軽くスライスをかけた浮き球を蹴る。そこにフリーで待っていたのは、大石治寿だった。ピンポイントのボールを「振るというより当てる」感覚で蹴った大石のシュートが、ゴールネットを揺らした。

「みんなが僕がプレッシャーにかからずシュートを打てるように協力してくれた」

この場面で、沼津は梅井大輝と中川創にマンツーマンマークをつけている。2人がゴール中央にポジションをとって、そのまま前に出ることで、相手のブロックを押し下げ、ファーの大石をフリーにした。渡辺彰宏GKコーチがスカウティングし、沼津戦で1回だけやろうと話していたサインプレーだったという。

89分には3点目。相手の後方でのパスにプレッシャーをかけて、高い位置でボールを奪う。フィニッシュは、この日ベンチスタートだった末吉隼也。GKとの1対1をインカーブをかけたシュートで沈めた。すると、末吉はチームメートを呼んでゴールパフォーマンスを始めた。ゆりかごダンスだった。

実は、試合2日前の10月4日、末吉には第二子となる長女が生まれていた。シャイな末吉はクラブスタッフにすら話してはいなかったが、密かにお祝いゴールを狙っていたという。SC相模原にとっても、家族にとっても最高のプレゼントになった。

3-0のままタイムアップ。相模原ギオンスタジアムは喜びに満ちた空気に包まれた。

試合後、三浦監督が真っ先に勝因に挙げたのは、やはり「球際」と「気迫」という2つだった。

「ゲームに入った瞬間に選手のパワーとかファイトするという気迫をすごい感じて、開始5分ぐらい今日は行けるなと思っていました。球際で相手に負けないというところで、最初から最後までやり続けたことで、得点が生まれて、失点しなかった。今日はそれに尽きるかなと思います」

なぜ、そこまで気持ちを出すことができたのか。エース・大石はチームメートを代表して言う。

「自分たちが5連敗している状況で、その中でも前向きな発言をして選手たちを鼓舞してくれたのは、今日来てくれたサポーターのみなさんだったので。そういう人たちのために、自分たちが戦っている姿勢を見せようと」

その言葉を聞きながら、頭の中にある歌が流れていた。

さぁ行こう緑溢れ
俺らはともに進む
相模原の力で
勝利を掴みとろう
どんな時でも
ともに戦い
相模原を愛してる

今日ほど、この歌詞の意味を感じたことはなかった。ピッチで戦う選手とピッチの外から後押しするサポーター。SC相模原が、本当の意味で一つになってつかんだ、最高の勝利だった。

取材・文 北健一郎(SC相模原オフィシャルライター)