KITAKEN MATCHREPORT Vol.25
vs ギラヴァンツ北九州
『やれるのか?』
5504人。J3の第24節でSC相模原vsギラヴァンツ北九州は最多入場者数を記録した。エキシビションマッチ「さがみはらドリームマッチ2019」の余韻が残る中でキックオフされた試合は、4連敗からの脱出をかけた大事なものだった。
三浦文丈監督は前節からスタメンを3人いじってきた。阿部巧が9月7日のザスパクサツ群馬戦以来に左センターバックに入り、右ウイングバックの川上盛司とボランチの末吉隼也がそれぞれ復帰した。
「巧を使ったのはコーチングできるのと、うちの守備陣の中では走力があるということ。相手が狙ってくるであろう背後のボールへの対策を考えて出しました」
北九州には町野修斗、池元友樹というスピードと裏への飛び出しに長けた2トップがいる。DFラインの背後を突かれるボールは、SC相模原の明確な弱点と言っていい。そこを補うために、三浦監督は「うまさ」の中川創、「高さ」の梅井大輝ではなく、「速さ」の阿部を起用した。
16分、先制点が生まれる。起点となったのは、ボランチ・末吉から左ウイングバック・平石直人へのライナー性の速いパスだった。
「相手が4バックだったので、あそこに速いボールをつければチャンスになる」
平石はすぐ近くの上米良柊人に当てる。上米良はダイレクトで阿部に落とす。阿部からの浮き球のフィードを左に流れた大石治寿が受けると、ポストプレーのあと、ペナルティーエリアまで一気にダッシュしていた上米良にパス。
「相手に当たったら、よろけたので、うまく前を向けた」
相手と並走した上米良は体をぶつけてマイボールにすると、中に切れ込んでシュート……と見せかけて切り返す。バランスを崩して倒れそうになったが、体勢を持ち直すと左足シュート。
本人曰く「ニアを狙った」ボールはGKの股を抜けて決まった。上米良の実に半年ぶりとなるゴールを、先輩たちは手荒く祝福した。
今日こそは勝てるんじゃないか--。相模原ギオンスタジアムに漂った期待感は、しかし、6分で打ち消されてしまう。22分、左からのクロスを、ゴール前で跳ね返そうとした平石がまさかの空振り。ファーで受けた高橋大吾にカットインシュートを決められた。
さらに10分後には3バックの左の脇のスペースを町野に突かれると、最後は池元に決められて1-2。試合前、最も警戒していた北九州の2トップによる、DFラインの背後へのボールと、そこからのコンビネーションで失点を喫した。そのまま前半を折り返す。
「やれるのか?」
三浦監督は今シーズンで初めて、ハーフタイムのロッカーで檄を飛ばしたという。4連敗中で、格上のチームにあっさりと逆転された。「今日もダメなのか……」。弱気になっている選手たちのマインドを、何とか変えたかった。
後半の頭からヴィニシウスを梶山幹太にスイッチ。それからしばらくは、SC相模原の時間が続く。「前から圧をかける状況になって、守備のところで連続して追うというシチュエーションが出てきた。良い形でボールを奪えて、その中で攻撃を仕掛けることができていた」
51分、左から末吉が蹴ったコーナーキックが、マークを外して完全にフリーになった阿部のもとへ。ゴールまで数メートルの距離で合わせたボールは、わずかにゴールから外れる。これが決まっていたら、試合の流れは変わっていただろう。
三浦監督は85分に梅井を投入してパワープレーに出る。最後までゴールを狙い続けたが、逆に90分、北川柊斗に3点目を決められて万事休す。これで5連敗となった。
「明日は練習試合をやって、次の日がオフなので、そこまでの間でスタッフと話し合いながら、どういう方向性にするかをしっかり決めて、選手に伝えたい。このままでいったらバラバラになってしまうので、こちらから方向を示したい」
三浦監督は「やり続けるしかないよと」と声をかけたという。
試合後、選手たちはロッカールームを出た後、エントランスのところにあるミックスゾーンを通ってバスに乗り込む。ただ、今日は出てくるのが普段よりも明らかに遅かった。ロッカールームで話し込んでいる選手も多かったという。
「チームでも話すんですけど、本当にやるしかないの一言です。バラバラになりがちなんですけど、全員が一つになるのは本当に大事なことだと思います」
普段は明るい上米良にも笑顔はなかった。誰もが、今の状況をどうしようかともがいている。チームを勝たせるために、どうすればいいのかを探っている。
アスルクラロ沼津戦は1週間後。どんなに苦しくても、時計の針は止まらない。前に進む以外の選択肢は残されていない。
取材・文 北健一郎(SC相模原オフィシャルライター)