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05-15-2019

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KITAKEN MATCHREPORT Vol.19『120分間の結末』

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KITAKEN MATCHREPORT Vol.19
天皇杯神奈川県予選決勝
vs 桐蔭横浜大学戦
『120分間の結末』

2019年5月11日。

SC相模原にとって、この日は「初めての天皇杯出場を決めた日」になるはずだった。

「たくさん来てくれていて、心強い」

試合前のアップ中、緑に染まったスタンドを見ながら三浦文丈監督はつぶやいた。三浦監督にとって天皇杯予選はAC長野パルセイロ時代の2016年以来2度目だ。その時は大学生チームにPK戦で辛勝して出場を決めた。「簡単な試合にはならないよ」。その言葉は自分に言い聞かせているようだった。

準決勝で桐蔭横浜大学FCをPK戦の末に下したSC相模原の相手は、トップチームにあたる桐蔭横浜大学。J1の川崎フロンターレ入団が発表されたイサカ・ゼイン、全日本大学選抜に名を連ねる橘田健人など、将来有望なタレントが揃う。

1週間前の長野戦から、スタメンは5人が替わっている。GKが田中雄大、DFが丹羽竜平、富澤清太郎、梅井大輝、ボランチに末吉隼也、上米良柊人、ワイドは右に川上盛司、左に平石直人、前線は大石治寿、ジオヴァンニ、水野晃樹。前線の3人の組み合わせは公式戦では初めてだ。

13時ちょうど、強い日差しが容赦なく照りつける中で始まった試合は、予想通りタフな試合になった。前半のシュート数はSC相模原の7本に対して、桐蔭横浜大学は2本。3倍以上のシュートを放ってはいたものの、そのほとんどがセットプレー絡みだった。

構図としてはプロvs大学生だが、J3クラブが特別なアドバンテージを持っているわけではない。炎天下の中で試合が進んでいけば、平均年齢20歳前後の集団に優位性が生まれるのは明らかだった。前半をスコアレスで折り返した時、不安がよぎった人は多かっただろう。

だから、50分に生まれた先制点は、ピッチの中で戦っている選手にとっても、ピッチの外で戦っているサポーターにとっても大きなものだった。

左サイドからの浮いたクロスが、ペナルティーエリア内で待っているジオヴァンニの少し後ろ側へ。「細かくは覚えていないんですけども、ボールが高く上がったところで瞬間的に合わせました」。10番がオーバーヘッドで強引に合わせたシュートは、天皇杯出場を引き寄せる貴重な1発となった。

ゴールが決まった後の爆発的な喜びは、しかし、落胆の感情に上書きされてしまう。65分、自陣のゴール前でのクリアを拾われると、要注意選手の1人だった橘田にシュートを決められる。

失点直後から三浦監督が動く。67分にゴールを決めたジオヴァンニを下げて小田島怜を、74分に水野に代えてベンチスタートだったエースのジョン・ガブリエルを、83分に平石を阿部巧にスイッチ。フレッシュな選手を入れることで、大学生のアドバンテージである運動量に対抗する狙いが見えた。

交代カードを切ったものの、終盤になるにつれて、SC相模原が押し込まれる時間は目に見えて増えていった。桐蔭横浜大学出身であるGK田中雄大のスーパーセーブがなければ、90分のうちに試合が決まってもおかしくはなかった。

延長戦の前、三浦監督が強調したのはサッカーをする上で何よりも大事なものだった。「まずは気持ちだぞ、粘り強くやるよ」。炎天下の中で90分を戦い抜いた選手たちに疲労の色は隠せない。それは同じ環境で応援し続けていたサポーターにとっても同じだっただろう。誰もが天皇杯に出たいと思っていた。最後まで全力で走り切った。だが、天皇杯出場は叶わなかった。

106分、相手陣内でのセットプレーからボールを失うと、ロングカウンターから2失点目を喫した。ラスト15分、前線にDF梅井を上げてジョン・ガブリエルとのツインタワーでパワープレーも行なったが、最後までゴールネットを揺らせなかった。

試合後のピッチでは、表彰式が行われた。SC相模原の選手たちは、ユニフォーム姿のまま、ずっとうつむいていた。

「悔しいです。天皇杯は結果が全てなので……」

キャプテンの富澤は声を振り絞った。リードしたにも関わらず、同点に追いつかれ、延長戦で突き放された。逃げ切れなかった要因として、富澤はゲームコントロールの未熟さを挙げた。

「ゴールに向かうプレーはもちろん必要ですが、ボールをもっと動かして、相手を走らせる、そういうプレーも必要だったと思います。ちょっとしたパスが、ジャブのように効いてくる。僕らは大学生よりも経験がある。足を止めさせたかったけど、できなかった。どっこいどっこいの試合に持ち込まれてしまった」

スーパーゴールを決めたジオヴァンニにも笑顔はなかった。ブラジルからやってきて1年目の選手も、SC相模原にとって天皇杯出場がどれほど重要なのかを感じ取っていた。

「自分のゴールと、チームの勝利を取り替えることができるのであれば取り替えたいです」

どんなに悔やんでも、結果はひっくり返らない。カテゴリーが上の相手に自分たちの力を試すことはできない。そして、リベンジするには1年後まで待たなければいけない。失ったものは大きい。

チームは2日間のオフになる。富澤はチームリーダーとしてメッセージを発した。「遊んでる場合じゃない」。プロとして、大学生に敗れたという事実をどう受け止めて、どんな行動につなげるか。まだ戦いの場は残されている。歯をくいしばって、這い上がるしかない。

取材・文 北健一郎(SC相模原オフィシャルライター)