KITAKEN MATCHREPORT Vol.15
vs ガイナーレ鳥取
『相模原の新たなヒーロー』
2019シーズンの初勝利をもたらしたのは、相模原出身のルーキーだった。
「あんまり覚えてないんですよね。これから、じっくり見ようと思います」
プロ初ゴールの感想を聞かれた今日の主役、上米良柊人は初々しい表情で振り返った。SC相模原が新潟医療福祉大学と練習試合をした時の活躍が目に留まって入団オファーを受けた。2週間前、相模原ギオンスタジアムの開幕戦でJデビューを飾った。
「サッカーを始めた場所ですし、地元でプレーできたのはうれしかった。ただ、今日はほとんど何もできなかった。スタメンで出るためにアピールしていきたい」
第1節のカターレ富山戦のボールタッチは本人曰く「たぶん2、3回」。第2節のザスパクサツ群馬戦はベンチ入りするも出番はなし。それでも、日々の練習から100%を出してアピールを重ねてきた。そして迎えた2度目のホームゲーム、鳥取戦。アップしていた上米良に声がかかったのは、後半開始直後の52分だった。
前半14分にジョン・ガブリエルのPKによって先制していたSC相模原。昨年はホームで2-4、アウェイで0-7と苦杯をなめた相手にリードしたまま後半を迎えていた。「前半からしっかりボールを動かせていたし、相手の状況を見てサッカーできていたと思う」と外から試合を見ていた千明聖典が振り返るように、上々の内容といってよかった。
それでも安心はできない。群馬戦では86分までリードしながら、そこから2失点を喫して逆転されている。三浦文丈監督が「一歩遅かった」と振り返ったように、もう少し早く手を打っていれば結果が変わっていた可能性はあった。上米良については「コンディションがよかったから、早いタイミングで使おうと決めていた」という。
リードしていると、どうしても守りたいという意識が働く。ただでさえ運動量が落ちてくる後半に、気持ちも受け身になると一方的に押し込まれてしまう。そんな状況にしないために、三浦監督はカンフル材を投入した。
しかし、上米良の交代後の59分、SC相模原は鳥取に失点を許してしまう。「自分が入った後に失点してしまったので、ヤバイなという気持ちは正直ありました」。5分間で2失点した、前の試合の記憶はまだ色濃く残っている。しかし、前向きな性格のルーキーはすぐに発想を切り替えた。「でもまだ時間があったので、ここで決めたらヒーローだなと」。
決勝ゴールが生まれたのは、失点からわずか1分後のことだ。ペナルティーエリア内で、ジョン・ガブリエルがつなごうとしたボールが相手に当たってこぼれる。混戦の中で素早く反応した上米良は、1回、2回とゴールに向かって蹴った。シュートと表現してよいのか迷うほど、コロコロとしたボールはしかし、GKの横を通り過ぎてゴールネットを揺らした。
三浦監督は苦笑いを浮かべた。
「よくわからない1点が入っちゃって(笑)。どうして入ったのかわからなかったんですが……」
がむしゃらに結果を求めて行った貪欲な姿勢と、その勢いを信じて早めにピッチに送り出した勇気ある決断。決して華やかなではなかったかもしれないけれども、2つが噛み合ったからこそ生まれたゴールだったと思う。
三浦監督は次なる手を打った。3トップの1角、シャドーで出場していた伊藤大介に代えて、ボランチの千明を入れたのだ。
「後半の途中で(相手の)縦パスが入るようになって嫌な感じがしたので、千明を入れてシステムを3-5-2、中盤を3枚にして内側を締めるというイメージでした。ジョンと上米良を2トップにして、そのまま追わせて、最後に(川上)エドを入れて高い位置でスプリントさせるところまで、今日に関してはプラン通りにいったと思います。」
中盤の人数を増やして、鳥取のボランチにプレッシャーをかけやすくすることで、前線への縦パスを制限する。そうすることで最終ラインを高い位置に保つことができる。群馬戦で試合終盤に下がりすぎて2失点した教訓はしっかりと生かされていた。
開幕からボランチとして3試合連続フル出場中の梶山幹太は、内容よりも結果がほしかったと語った。
「2試合勝てなかったし、前節は悔しい負け方だったので、今日の試合にかける思いはみんな強かったです。ホームだったので、内容というよりも、勝ち点3とれたのが本当に良かったと思っています」
攻撃のみならず守備でも貢献したエースのジョン・ガブリエルも1勝の大きさを強調する。
「大幅に選手が替わったので、チームとして完成できていないところはあります。ただ、今日はしっかり勝つことができて、技術的にもフィジカル的にも戦術的にも上がってきているので、勢いに乗っていければと思います」
試合後、ゴール裏で勝利した後の恒例行事「ファミリア」が始まった。上米良が前に出て踊る。ちょっとぎこちなかったそのダンスは、相模原に新たなヒーローが誕生した日のこととして、ずっと記憶に残り続けるはずだ。
取材・文 北健一郎(SC相模原オフィシャルライター)