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12-12-2018

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KITAKEN MATCHREPORT Vol.12『相模原の未来のために』

KITAKEN MATCHREPORT Vol.12
vs 鹿児島ユナイテッドFC
『相模原の未来のために』

 2018年12月2日--SC相模原というクラブの歴史に新たなページが刻まれた。川口能活の現役ラストゲームとなったJ3最終節・鹿児島ユナイテッドFC戦の入場者数は1万2612人。日本サッカーを牽引してきた炎の守護神を見ようと日本中から相模原ギオンスタジアムにファンが集まった。

「正直、不安もありました」

 一人の選手の取材としては極めて異例な、試合後の記者会見を行った川口は安堵の表情を浮かべた。最後に先発したガイナーレ鳥取戦は0-7で大敗していた。それ以来、一度もピッチに立っていなかった川口には「あの試合を現役最後の試合にしたくない」と「自分が出てまた大敗したらどうしよう」という2つの思いが混在していた。

 そんな川口を支えたのは、相模原の仲間たちだった。試合前のロッカーアウトを控えて、SC相模原の選手たちはある映像を見ていた。それは、西ヶ谷隆之監督と渡辺彰宏GKコーチが、川口の最後のために作ったモチベーションビデオだった。

「見終わった瞬間、自然と拍手が起こって、よし、行くぞってなりましたね。涙ぐんでいた選手もたくさんいました」

 渡辺GKコーチが言うように、チームは「能活さんの最後を良い形で終わろう」という気持ちでまとまっていた。その気持ちは控えに回ることになったGK田中雄大も同じだった。

「イチ選手として出たいって気持ちはありますけど……単純に見たいって気持ちのほうが大きかったです。リスペクトが上回り過ぎて、大好きが強すぎて、ただただ見たかった」

 果たして、そんな最終戦は1-0というGK、そして守備の選手にとって最高のスコアで終わった。後半25分にジョン・ガブリエルが決めると、J2昇格を決めたばかりの鹿児島に猛攻を受けながらも、最後のところで踏ん張った。

 危ない! やられた!

 そんなピンチを何度も救ったのは背番号1だった。

 前半21分、ペナルティーエリア内でDFがかわされて打たれたシュートを左手でストップ。後半9分にはDFラインの背後をとった相手FWとの1対1を止めた。

「キックのフィードのところで悪いリズムを僕自身が作ってしまっていて、試合を難しくしてしまったところがあったんですけど、1対1には自信があったし、守備においては絶対にやらせないという気持ちだった」

 誰が見ても大活躍だったというのに、キックの精度が今ひとつだったことを課題に挙げる。細部にこだわり、ちょっとでもうまくなるために1日1日のトレーニングを積み重ねてきた川口らしさが滲んだ。

 川口と清水市商業高校で共にプレーしていた西ヶ谷監督は感嘆の言葉を送った。

「改めて今日のプレーを見て、彼がどれだけチームのピンチを救ってきたか、日本サッカーのピンチを救ってきたか、ゴールを守ってきたというのが凝縮された90分だったのかなと感じました」

 満員になった相模原ギオンスタジアムのスタンドを特別な思いで見つめている男がいた。

「僕がここに来た時はまだ神奈川県リーグで、人工芝のグラウンドで、土のグラウンドで練習していました。その時は、観客も10人ぐらいしかいなかった。今日は入場した時に本当に感動したというか、このスタジアムが満員の景色というのは最高でした」

 SC相模原にやってきたのは2010年。それから9年間の中で、神奈川県リーグ、関東リーグ、JFL、J3へと駆け上がっていくチームをずっと支え続けた。だが、そんな工藤が緑のユニフォームを着て、このピッチでプレーすることはもう、ない。

 12月8日、SC相模原は「工藤祐生選手 契約満了のお知らせ」というリリースを出した。

 工藤はSC相模原に関わる全ての人にとって特別な存在だった。毎年、多くの選手が入れ替わる中でも、背番号3はずっとチームにいた。地元相模原出身。まさに「相模原の魂」だった。本人の中にも自分が生まれ育った相模原のクラブでサッカー選手としてのキャリアを終えたいという思いがあった。ただ、それは叶わなくなった。

 12月9日に行われた、SC相模原のサポーター忘年会。工藤は、契約満了となった辻尾真二、菊岡拓朗と共に駆けつけた。9年間、自分の全てを捧げたクラブからの突然の戦力外通告を簡単に受け止められるはずはない。それでも、工藤はSC相模原への変わらぬ愛情を口にした。

「何を喋っていいかわからないんですけど……最後もこのチームでサッカー人生を終わらす覚悟を持っていたんですけど、自分の思い描いていたものとは違って悔しい思いはあるんですけど、このチームは続きますし、またいつか違った形で帰ってこられたら温かく迎え入れてください。本当にありがとうございました」

 炎の守護神が伝え続けたプロとしての姿勢。誰よりもクラブを愛した相模原の魂が残した思い。2019シーズン、SC相模原は大切なものを背負って走り出す。

取材・文 北健一郎(SC相模原オフィシャルライター)