試行錯誤の末にたどり着いた「3」
3か、4か——。
第7節のカターレ富山戦で何よりも気になっていたのが、DFラインの人数だった。1週間前に行われたアウェイのギラヴァンツ北九州戦。4-0で今シーズン初白星を挙げた試合で、西ヶ谷隆之監督は前後半でシステムを変えていたからだ。
前半はこれまでの4試合で行なっていた4-4-2でスタートした。谷澤達也のゴールが決まって1-0で折り返した後半、選手交代を行う。右MFだった徳永裕大に変えて、辻尾真二がイン。辻尾は右サイドバックが本職だが、一列前でもプレーできる。徳永のポジションにそのまま入るのだろうと思っていた。
違った。
後半開始から相模原は4-4-2から3-4-2-1へシステムを変えた。DFラインは右から丹羽竜平、工藤祐生、梅井大輝、中盤はダブルボランチが成岡翔、サムエル・アウベス、ウイングバックは右に辻尾、左に保崎淳、前線はジョン・ガブリエルを頂点に、シャドーの位置に谷澤達也と菊岡拓朗。
西ヶ谷監督によれば、システム変更の狙いは「守備のズレを修正するため」だったという。サッカーには“ミラーゲーム”という言葉がある。両チームが鏡(ミラー)に映したように同じシステムでプレーすることだ。北九州は前半から3-4-2-1だったので、相模原が相手に合わせた形になる。
「後半運動量が落ちてきた時に、やっぱりズレがでてくるので、そこをしっかり修正できる形でメンバー交代と人の配置を考えた」(西ヶ谷監督)
セレッソ大阪U-23戦、ガイナーレ鳥取戦では、後半に運動量が落ちて失点を重ね、2連敗を喫していた。とりわけ多かったのが、サイドチェンジに対してスライドが間に合わずに寄せが遅れたり、中盤でのマークが曖昧になってゴール前に運ばれたりするシーンだった。
だが、完全にシステムを噛み合わせておけば、誰が、どの選手を見るのかがはっきりする。守備の陣形を大きく変えずに守れるので、体力の消耗も抑えられる。
同じ轍は踏まない——。
アウェイ・北九州での試合は、気温こそ15℃ほどだったが、太陽に照らされたことで体感温度はかなり高くなっていた。そんな状況でも後半にガクッと落ちずに、前がかりになった相手から3点を追加できたのは、「修正力」の賜物だった。
だからこそ興味があった。次の試合で、西ヶ谷監督はどちらのシステムを選択するのかが。富山の予想システムも、北九州と同様に3-4-2-1。その相手に対し、前節を踏襲して前半4バック、後半3バックにするのか、あるいは最初から3バックにするのか——。
答えは「3」だった。
「北九州での後半の戦いと、今のうちの選手のストロングの部分を、選手の噛み合わせをした時に、どの形かなというところで。その部分を継続してトライしたということです」(西ヶ谷監督)
昨季まで水戸ホーリーホックを率いていた新監督は、様々な配置や組み合わせを試して、どうすれば選手の良さを引き出せるのか、あるいはチームの弱点を補えるのかを見極めてきた。「北九州戦の後半の形」はチームが見つけた一つの答えと言えるかもしれない。
1-0で勝利した富山戦のゴールは、ジョン・ガブリエルが菊岡のクロスに頭で合わせたもの。北九州戦でも梅井による2点目を演出し、2試合連続アシストとなった10番は、2連勝の要因をこのように分析する。
「監督も試合前に行っていましたが、まずは守備から入ろうと。それによって良い守備から良い攻撃が何度か出てきて、チームにリズムが出てきている」
北九州戦も、富山戦も、こちらがゲームを支配できていたかというと、そうではない。むしろ、ボールを持たれている時間のほうが長かった。それでも、「我慢するところは割り切って我慢できている」(菊岡)というように、ボールを持たれる時間帯で必要なプレーを11人ができていた。
試合後には、選手とサポーターによる“ファミリア”で喜びを分かち合った。2勝2分け2敗、順位も10位に上がった。
「結果として出てくることで、また自信もつけるし、頑張れるところも頑張れるし、我慢できるところも我慢できるようになると思っています」(西ヶ谷監督)
文字通り“どん底”を味わったチームは、暗いトンネルを抜け出しつつある。
取材・文 北健一郎(SC相模原オフィシャルライター)