ビー・アラート
「お待たせしちゃって、すみません」
記者会見室に入ってくると、西ヶ谷隆之監督は到着が遅れたことを詫びた。試合後のミーティングが長引いてしまったのだという。
ガイナーレ鳥取をホームに迎えての第5節は2-4で敗れた。アウェイのセレッソ大阪U-23戦から2試合連続で逆転負け、未だ勝ち星のないチームは17チーム中17位に沈んでいる。
もったいない試合だった。
開始30秒、谷澤達也のゴールで先制する最高の立ち上がり。一度は同点に追いつかれたが、菊岡拓朗がファウルをもらって得たPKを、ジョン・ガブリエルが決めてすぐさま勝ち越した。しかし、前半終了間際に同点にされると、後半にも2点を追加されてしまう。
鳥取の4点はいずれもブラジル人選手が決めたものだ。
5試合連続ゴールでJ3の得点ランクトップに立つレオナルド、切れ味鋭いドリブルを仕掛けるレフティーのヴィートル・ガブリエル、そしてJリーグでの豊富な経験を持つフェルナンジーニョ。鳥取の森岡隆三監督が「前線のアタッカーたちのクオリティには脱帽です」と語ったように、3人が見せたパフォーマンスは素晴らしかった。
とはいえ、ブラジル人選手たちのクオリティを相模原が引き出させてしまったのも確かだ。
センターバックの梅井大輝が「一つの寄せだったり、コースの切り方だったり、ちょっとしたところの積み重ねが、2個、3個、4個と積み重なった時に失点している」と言うように、失点シーンを巻き戻せば、複数の選手が絡んでいることがわかる。
例えば、2失点目は右サイドの高い位置で辻尾真二がゴール前に入れようとしたロングスローが、相手にカットされたところが出発点になっている。そこからドリブルで仕掛けてきたヴィートル・ガブリエルに対し、潰しにいくのか、引いて守るのか曖昧になっているうちに、あれよあれよとゴール前まで運ばれて打たれてしまった。
3失点目は、右から入ってきたクロスに対して菊岡がスルーして久保裕一とワンツーをしようとしたが合わず、ボールを失ったところからカウンターを受けている。シュートを打たれた場面では、レオナルドの正面にいた梅井が十分に寄せ切れていなかった。今シーズン、J3リーグで4試合連続ゴール中のFWに対する守備としては、あまりにもゆるかったと言わざるを得ない。
4試合を終えて7得点はJ3全体で5番目、消化試合数が4試合のチームの中では上から2番目だ。ただ、点も取るけど、それ以上に取られてしまう。ここまで10失点、1試合平均2・5失点を喫している。
「プレスに行くのか、ディレイするのか、どこでスイッチを入れるのかをはっきりして、全体で統一していかなきゃいけない」(辻尾)
サッカーはミスのスポーツだ。どんなに素晴らしい選手がいるチームであってもミスは必ず起きる。大事なのは、ミスをした後にどうするかだ。
自動車の事故が起こる要因として「だろう運転」というものがある。見通しの悪いカーブで「まだ対向車は来ないだろう」と思って曲がる、暗い道で「こんなところに人はいないだろう」と思ってスピードを落とさない。そうした楽観的な思い込みが事故につながる。
今の相模原の選手たちは「だろう運転」のような意識でプレーしているように見える。誰かが止めてくれるだろう、どこかでパスを出すだろう、打たれても決まらないだろう……。そんな一人一人の「だろう」が積み重なった結果が事故=失点につながっている。
ピッチの上では、常に心を研ぎ澄ませて、最大限の警戒をしなければならない。「だろうプレー」ではなく「かもしれないプレー」。ボールを失うかもしれない、ドリブルで抜かれるかもしれない、シュートを打ってくるかもしれない……。そうした「かもしれない」こそが、最大の事故予防になる。
実力のある選手はいるし、戦い方も間違ってはいない。今、必要なのは一人一人がピッチの上での意識を変えること。そうすれば、勝ち点3はつかみとれるはずだ。
取材・文 北健一郎(SC相模原オフィシャルライター)