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11-10-2018

 お知らせ 

KITAKEN MATCHREPORT Vol.11『あの日のリベンジ』

KITAKEN MATCHREPORT Vol.11
vs Y.S.C.C.横浜
『あの日のリベンジ』

 泥臭い勝利だった。得点はジョン・ガブリエルのPKによる1点のみ。内容的にも良かったとは言えない。それでも、SC相模原にとって大事な、大事な勝利だった。

 Y.S.C.C.横浜と戦っている姿を見ながら、5月18日を思い出した。天皇杯の神奈川県大会決勝。クラブが設立10周年を終えて、新たな10年に向けて歩み始めたクラブにとって、天皇杯初出場はまさしく悲願だった。

 しかし--、歴史を塗り替えることはできなかった。ニッパツ三ツ沢球技場で行われた決勝戦は1-2で敗れた。神奈川代表として天皇杯出場を決めたのはY.S.C.C.横浜だった。

「正直、申し訳ない気持ちの一言です。これだけの雨の中でもたくさんのサポーターに来ていただき、最後まで応援してもらって。とにかく勝つことにフォーカスしてやってきた中でのこの結果なので、それは我々の責任ですし、リーグ戦を含めて次につなげていくしかない」

 就任から数カ月しか経っていなかったものの、SC相模原のサポーターがどれだけ天皇杯出場を望んでいるかを感じていた西ヶ谷隆之監督は、天皇杯に連れて行けなかったことを心の底から悔しがっていた。

 それは選手たちも同じだった。同じ神奈川に本拠地を置く、神奈川ダービーであることに加えて、「天皇杯のリベンジをする」というモチベーションが、この日のSC相模原には乗っかっていた。

「ファン・サポーターを含めて、相模原に関わる全員が悔しい思いをしたので、そのリベンジを果たせたのは良かったです」と語ったのは、勝利の立役者となったGK田中雄大だ。

 前半32分、Y.S.C.C.横浜の左サイドバック、大泉和也がドリブルで侵入してきたのを工藤祐生が引っ掛けてしまい、PKを与えてしまう。サイドバックが高い位置をとって、厚みを持って攻撃に絡んでくるのはY.S.C.C.横浜が狙っているパターンだ。

 偶然だが、天皇杯では32分、33分と立て続けに失点を喫したことが大きな敗因となっている。絶体絶命のピンチは、しかし、23試合目の出場となる29番が食い止めた。

「蹴る瞬間までは、どちらにも来る可能性があると思っていました。冷静に、自分の間合いで、最後まで相手の状態を見られました」という田中は、キッカーの大泉が蹴ったシュートを見事にセーブ。

「PKセーブで0-0で前半終わったことをポジティブに捉えて、残り45分しっかり勝ちにいこう」(西ヶ谷監督)

 後半からSC相模原は攻勢に出る。56分、梅井大輝のパスからDFラインの背後をとったジョン・ガブリエルがGKをかわそうとして倒されPKを獲得。15ゴールを決めているエースは、細かくステップを踏みながら助走する、独特な蹴り方から、冷静にGKの逆をとった。

 1点をリードしたものの、勝利への道のりは平坦ではなかった。

 58分、松本孝平に代わって出場した保﨑淳が接触プレーの際に頭を打つと、わずか9分で交代してしまう。82分には、谷澤達也のゲームパンツが破れるというアクシデントも発生した。

 保﨑がピッチの外に出た間、谷澤がユニフォームを着替えている間、合計すると5分ほど10人になっている時間帯があった。相手からすればまたとないチャンスで、失点していてもおかしくなかった。

 苦しい時こそ、チームの真価は問われる。保﨑がいなくなったあと、谷澤がピッチの外に出ている時、ピッチに立っている全ての選手がその穴を埋めた。とりわけ、ジョンは最前線から自陣のペナルティエリア付近まで下がることもあった。

 自分でも認めるように、ジョンはあまり守備が得意な選手ではない。これまでは、試合の後半に下げられることもあった。ただ、今日は最後まで足が止まらなかった。体力を消耗することで、得点の可能性が少なくなったとしても、「自分にできることをやっていかないといけない」と走り続けた。

 勝利のホイッスルが鳴ったのは、完全な1点もののヘディングシュートをGK田中が止めた直後だった。1-0。SC相模原がY.S.C.C.横浜との神奈川ダービーを制した。

 試合後--。ある選手に話を聞こうと呼び止めた。キャプテンとして89分までプレーした10番、菊岡拓朗だ。7月から戦線離脱していた菊岡が、相模原ギオンスタジアムのピッチに立つのは、およそ4カ月ぶりだ。

「やっぱり公式戦はすごい楽しいし、これからも頑張ろうと思えましたね」

 菊岡は笑顔を浮かべて振り返った。Jリーグ5クラブを渡り歩く、豊富なプロキャリアを誇る名手は、長引く怪我から本当に復帰できるのかという不安と戦っていた。だからこそ、こうやってサッカー選手としてボールを蹴れたことが、うれしかったのだ。

 菊岡はY.S.C.C.横浜との天皇杯決勝を戦っている。これは完全な推測だが、西ヶ谷監督が実戦からしばらく離れていた選手をスタメンで出したのは、あの悔しさを晴らしたいという、数字には表わせない思いが、この試合では大事になると思っていたからではないか。

 今シーズン初めてのホーム3連勝を達成したチームは、11月11日、藤枝MYFCを迎えてホーム4連勝を狙う。泥臭くても、かっこ悪くてもいい。全員がチームのために戦って、サッカーを楽しむ。今日のようなサッカーが見たい。

取材・文 北健一郎(SC相模原オフィシャルライター)