SC相模原

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06-13-2018

 お知らせ 

HONDA MATCHREPORT vol.1『試練の時』

試練の時

 選手のロッカールームの前にはファン、サポーターの熱い思いが綴られた紙が張り出されていた。クラブが試合に向けて「#SC相模原選手に届けメッセージ」の募集を呼び掛けたところ、多くの声が届いた。

「俺達がここにいるどんな時も!」「相模原の選手は俺達の誇り」「今日こそみんなで勝利のファミリアを踊りましょう!」「雨でも来たよ!」「そろそろ勝利おねガミティ」「サッカーを楽しもう」「多くのサガミスタがみんなを応援しているよ」「泥臭く戦え!勝利を信じて!」

 数え切れないほどのメッセージと共に「俺達が背中を押してやる」と力強く書かれたサポーターからの横断幕。これを見て、選手たちが奮起しないはずがない。リーグ戦で連敗、相手は好調を維持するFC琉球、そして、約1カ月ぶりの相模原ギオンスタジアムでのホームゲーム。舞台は、整った。

 試合序盤は、声援の後押しを受けた選手が幸先の良いプレーを見せていた。12分に、ジョンがPKを決めて先制すると、台風5号の影響で雨が降りしきる会場は、そんなことも関係なしに熱気を帯びていた。

 だが、ここから歯車が噛み合わなくなる。

「いい流れで先制して安心してしまうのか、2点目を取りにいく姿勢がなくなってしまった」(千明聖典)

 追加点を奪いにいくのか、前半はこのスコアでいくのか。選手同士の微妙な気持ちのズレは、ボールにそのまま乗ってしまうかのように細かいミスが続き、ゲームを支配できなくなっていた。

 そして31分、40分と立て続けに失点して、逆転されてしまう。2つとも、左サイドからのクロスをゴール前に送られての失点だった。

「(GKとDFの間を狙われることは)話にも出ていた。自分たちのサイドバックの角を攻略されてクロスを上げられるところはずっとよくなくて、修正し切れていない部分が結果に出てしまった」(田中雄大)

「守備の選手としては悔しい。中には梅(梅井大輝)とか、弾ける選手がいる中で、そこまで背が高くない選手にやられてしまったので」(工藤祐生)

 1-2から、再びギアを上げなければいけない中で、さらに流れの悪さを露呈してしまう。

 自陣右サイドの辻尾真二と大塚翔平がパス交換すると、大塚のリターンがゴールライン方向へと流れてしまう。これを拾うために辻尾が走り、GKの田中もケアに動いていた。すると、ゴールラインのギリギリで辻尾が触れたボールは相手に奪われ、そのままガラ空きのゴールへとつながれてしまった。

「自分の判断としては真二さんが背負っていて、自分が前向きでしたから、中の祐生さんのマークと祐生さんも近かったので、シンプルに陣地挽回でいいかなと。(前線に)ジョンもいましたし、自分が蹴るというプランを持っていて、それを(辻尾にも)早めに伝えた」

 田中の指示は、辻尾にも届いていたという。だが、辻尾は止まらない。

「近付いてきたからもう一回、言ったんです。でも止まらないから、何か考えがあるのかと思った。周りの選手には、真二さんを投げ飛ばしてでも蹴れと言われたのですが、結構な時間があって声も届いているから、考えがあるのだろうと自分がプレーを止めて渡したんですけど、いい対処策がなかったからああなった。自分がもっと威厳を持って、真二さんの中でプレーの迷いがなくなるくらい、迫力を出してやるしかない」

 ちょっとした連係ミスかもしれないが、失点に直結してしまうところに、チームの現状が現れている。

「ピッチでやっていて、ちょっとバラバラかなと。レフリーの判定や相手だったり、自分たちでイライラして。退場ももったいない。後半はもういくしかないという中で10人になってしまうと難しくなる」(工藤)

 後半、57分にサムエルに代わり谷澤達也を投入して攻撃性を示すと、ジョンのシュートが右ポストをたたくシーンなど、反撃の兆しを見せた。だが、そこからのカウンターで再び失点して1-4。3点差という絶望的な数字の中で、さらに66分、ジョンが2枚目のイエローをもらって退場。ゴールゲッターを失ったことで、SC相模原は谷澤をFWに据えて戦うしかなくなっていた。

 ここはホームなのか。選手は戦えているのか。

 ふと、そんなことを感じた。雨の中、バックスタンドでカッパを着たり、傘を差しながら声援を送る人たちは、現状を見守ることしかできない。ゴール裏で声を枯らすサポーターの声も、虚しく響く。メインスタンドからは、「(ボールを)上げろよー!」「何やってんだ」と怒号が飛んでいる。

 SC相模原が勝てそうな雰囲気は、限りなく薄れていた。さらに1点を奪われて迎えた90分。中央の丹羽竜平からゴール前に目の覚めるような縦パスが通ると、谷澤のシュートがGKに弾かれたところを梅井が押し込んで、最後の最後に1点を返して、試合は2-5で終了した。

 試合後の記者会見場に現れた西ケ谷隆之監督の顔は、意外にもいつもと変わらない。しかし、いつもより厳しめの口調で、こんなことを話していた。

「戦えているか、戦えていないかとか、チームとして一体感を出せているかとか。細かいところですが、ちょっとしたところがうまくいっていない。正直、今は名前でサッカーをしている選手がいる。名前だけでみれば、もしかしたらタレントがいると見えるかもしれないですが、彼らが今、このステージでどれだけ違いを出せているかといえば、正直なところ出せていない。選手の思考を変えていくチャレンジをしないといけない」

 戦うこと。チームの一体感。サッカーは名前でやるものではないこと。西ケ谷監督が発した言葉は、技術や戦術ではなく、意識改革の必要性だった。


 勝てていない中で、チームはもがき苦しんでいる。今節はリ・ジンヒョクが初出場・初スタメン、古川雅人も初めてピッチに立った。前節は、麦倉捺木が初出場・初スタメン。あの手この手を試しながら、若手の躍動や中堅、ベテランの奮起、チーム力の向上を目指して、チャレンジを続けている。

 6月は、ホームゲームがあと2試合ある。今週末の福島ユナイテッドFC戦を挟んで、23日にFC東京U-23、30日にガンバ大阪U-23という、若く勢いのあるチームと戦う。ホームの大声援の中で変われなければ、チームが変わるチャンスが失われてしまうかもしれない。まさに正念場だろう。

 試合後、ゴール裏への挨拶を終えて、うつむきがちに去る選手たちに声が掛かる。「頑張れよ!」「俺たちがついてるからな!」。選手たちの背中に、そんな言葉がこだましていた。

「こういう時こそ試されますよね。人とか、チームとか」(田中)

SC相模原は今、大きな試練の時を迎えている。


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取材・文 本田好伸(SC相模原オフィシャルライター代行)
※オフィシャルライター・北健一郎がロシアW杯取材中のため、6月のホームゲームはライター・本田が担当します