SC相模原

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04-27-2018

 お知らせ 

KITAKEN MATCHREPORT 天皇杯編

8年ぶりにつかんだチャンス

 

 

 

 正直言って、驚いた。

 

 日曜日とはいえ、午前11時キックオフ、そのうえ試合会場は相模原から1時間以上かかる場所と来ている。それほど多くのサポーターが来ることはないと予想していた。

 だから、驚いた。BMWスタジアム湘南のスタンドが、“ディープグリーン”に染まっていたことに。応援席となったメインの右側はSC相模原のチームカラーを身につけた観客で埋まっていた。

 しかも、応援席のテンションはリーグ戦と同じか、むしろそれ以上に高い。この天皇杯予選が、SC相模原というチームにとってどれほど重要なものなのかを改めて思い知らされた。

 2008年に創設されたSC相模原は、異例とも言えるスピードで日本サッカーのピラミッドを上がってきた。神奈川県リーグ、関東リーグ、JFLを経て、わずか6年でJリーグクラブとなった。

 しかし、そんなクラブがまだ達成していないものがある。それが天皇杯出場だ。2009年から在籍する最古参の工藤祐生が、クラブに関わる人の思いを代弁する。

 

「僕もこのチームに来て長いですけど、天皇杯はいつも予選で負けてしまっている。個人的にも、クラブとしても、天皇杯出場を果たしたい。絶対に出たいですね」

 

 天皇杯で勝ち進めば、J1やJ2のクラブと試合をするチャンスがある。格上の相手を倒せば、SC相模原の名前を一気に広められる。何よりも、真剣勝負によってチームが得られる経験値は計り知れない。

 試合前、クラブのスタッフがこぼしていた。「ウチにとって、“ここ”は鬼門なんですよ」。2013年から、ここ——BMWスタジアム平塚で準決勝が行われるようになってから、SC相模原は1回も勝っていない。大げさではなく、鬼門だ。

 

天皇杯の試合結果

2009 ●1-2 桐蔭横浜大学(決勝トーナメント) 

2010 ●2-4 Y.S.C.C.横浜(決勝) 

2011 ●1-1(PK3-4) 産業能率大学(2次トーナメント)

2012 ●2-3 横浜猛蹴(準決勝)

2013 ●2-4 専修大学(準決勝)

2014 ●0-4 神奈川大学(準決勝)

2015 ●1-2 専修大学(準決勝)

2016 ●0-1 横浜猛蹴(準決勝)

2017 ●1-2 桐蔭横浜大学(準決勝)

 

 太陽がピッチ上の選手たちを照りつける中、1日で最も暑い時間帯に準決勝はキックオフされた。

 準決勝の対戦相手、TUYは桐蔭横浜大学を母体とするクラブチームだ。スタメンの平均年齢は19.7歳(TUY)vs28.9歳(SC相模原)。SC相模原がどんなゲームをするべきかは明らかだった。

 若さや勢いを、どうやって封じるか。

 西ヶ谷監督の意図が見えたのはボランチの人選だった。リーグ戦では徳永裕大やサムエル・アウベスといった守備に特徴のある選手と技術のある選手を組み合わせてきたが、この試合では成岡翔と千明聖典というボールプレーヤーを並べたのだ。

 ボランチの成岡、千明、そしてシャドーに菊岡拓朗、谷澤達也。4人のテクニシャンを軸にボールをつなぐ。相手のプレスをいなし、決定的なチャンスを作る。

 試合前に描いていた理想は、しかし、実際のピッチではほとんど表現されなかった。

 前半こそ、うまく前後左右にパスを出し入れしながら、ピッチを広く使って何度か良い形を作った。ただ、辻尾のクロスからジョン・ガブリエルがヘディングで合わせて決めた29分の先制シーンを含めて数回を除けば、ボールを持たされていた感は強い。

 

「もっと楽にできるのに、自分たちで苦しくしてしまっていた」(成岡)。

 

 試合中、目についたのはこんなシーンだ。ボランチの成岡と千明が最終ラインまで下がってパスをもらう。前方にパスコースを探すが、出すところがみつかない。仕方なく、横パスやバックパスに逃げる。

 ボールが出てこないので、しびれを切らした前線の選手が下がってくる。そうすると中盤がますます渋滞し、ボールを受けた選手が相手のプレスにかかりやすくなる。まずい失い方からカウンターでピンチを招いたのは1度や2度ではない。

 

「何をやったら苦しくなるのか、もうちょっと考えながらプレーできても良いんじゃないかとは思います。経験ある選手たちがいるからこそ、もう少しゲーム中の立て直しというか、変化というものをつけていってもほしい」(西ヶ谷監督)

 

 何度かあった決定的なピンチを止めたのは、昨年まで桐蔭横浜大学でプレーしていたGKの田中雄大だった。

 

「大学生の持ち味である運動量や元気の良さというのは、自分も何ヶ月前までいてわかっていますし、向こうの時間帯も当然出てくる。それをイメージしながらプレーしていたので、あまりバタつくことはなかったと思います」

 

 普段と異なるキックオフ時間、モチベーションの高い相手。いくつかのエクスキューズがあるにしても、プロクラブらしさは見せられなかった。試合後、笑顔を浮かべている選手は1人もいなかった。

 それでも、SC相模原は勝った。鬼門のスタジアムで、勝った。天皇杯出場まではあと1勝。奇しくも、決勝の相手は関東学院大学に勝ったY.S.C.C.横浜に決まった。8年前、2-4でコテンパンにやられた相手に借りを返すチャンスだ。

 5月13日、ニッパツ三ツ沢球技場。今日の試合で出た課題を修正し、今日の試合以上の気持ちで戦った時、SC相模原に新たな歴史が刻まれるはずだ。

 

 取材・文 北健一郎(SC相模原オフィシャルライター)