KITAKEN MATCHREPORT Vol.7
vs アスルクラロ沼津
“恵みの雨”
SC相模原にとって待ちに待った勝利だった。
Jリーグ初となる2度の延期を経て行われた“第3節”のアスルクラロ沼津戦。平日ナイターという厳しい環境にも関わらず、1605人の観客が集まった。
エースのジョン・ガブリエルを出場停止で欠く中、西ヶ谷隆之監督が選んだスタメンは驚きを与えた。FW登録の選手がスタメンに入っていなかったのだ。4-4-2の2トップに並んだのは、サイドバックの辻尾真二と攻撃的MFの谷澤達也。苦しい台所事情がうかがえた。
前半は「ほとんどシュートを打っていなかったんじゃないか」(田中雄大)というぐらい、沼津のペースだった。最終ラインからパスをつないで組み立てようとしても、猛烈な勢いで襲いかかってくるプレスにことごとく捕まってしまう。
「プレスのスピードも速かったですし、連動性もあった中で後ろがバタついてしまった」(梅井大輝)。そんな試合展開の中、37分にはコーナーキックから先制点を許してしまう。ハーフタイムに引き上げてくる選手たちの表情から、明るい材料は読み解けなかった。
だが、西ヶ谷監督は決して悲観的には捉えていなかった。「あれだけ前から来ていて、90分持つはずはない。どこかで落ちる時間はある」。その言葉通り、前半と後半ではゲームの様相はガラリと変わった。
最後尾から見ていた田中が感じたのは、「押し込めるようになった」ということだ。あれほど強烈だった沼津のプレスが弱まり、SC相模原がボールを持つ時間が長くなった。
反撃の狼煙を挙げたのは59分、右サイドで梶山幹太キックフェイントから切り返し、左足でクロスを上げる。これがコーナーキックの流れでゴール前に残っていた梅井の前にこぼれた--。
「相手もいっぱいいたので(すぐに打っても)当たるな」。そう感じた梅井がとっさにダブルタッチで目の前の相手を外して左足でシュート。低弾道のボールはJ3で最高のセーブ率を誇る沼津GK牲川歩見の股を抜けて、ゴールネットを揺らした。
1-1で迎えた78分、ペナルティーエリアの外、左寄りの位置でフリーキックのチャンスが訪れる。ボールの近くに立っていたのは、辻尾、梶山幹太、梅井の3人。
試合中のセットプレーでキッカーを担当していたのは梶山だった。質の高いボールを蹴っていた20歳と、ゴールを決めている梅井に対し、「自分の得意な距離だったので、蹴らせてほしい」と主張してキッカーを勝ち取ったのは辻尾だった。
右足のインフロントでこすり上げたボールは、ジャンプした壁の上を越えると、鋭くカーブしながらゴール左に吸い込まれた。文句のつけようのないスーパーゴールでSC相模原が勝ち越す。
「結果を出してチームに貢献したいという気持ちが強かった」
辻尾が最後に先発出場したのは6月10日のFC琉球戦。1-5で大敗して以降、辻尾の名前はスタートリストから消えた。だからこそ、ようやく巡ってきたチャンスを逃したくなかった。
スタメンから外されても腐ることなく、自分にできることをし続けてきたベテランの姿勢を、西ヶ谷監督も賞賛する。
「得点も含めて、チームが求めるものを、出場時間が短い中でやってくれているのは大事なこと。次も連戦ですし、そういう選手が出てくることを期待したいと思っています」
前節の秋田戦で後半のアディショナルタイムに失点を喫していた選手たちは、集中力を最後まで切らすことなく守り続けた。アディショナルタイムの4分を乗り切ると、タイムアップの笛が鳴り響いた。実に、6月23日以来となるホームでの勝利をつかみとった。
2度の試合延期によって、ようやく行われた沼津戦。3月21日は大雪に見舞われ、7月28日は台風が直撃して流れた。天候に泣かされ続けたこの試合では、試合開始前と、試合の途中から雨が降った。その影響でピッチはスリッピーになり、ピッチの気温も何度か下がった。結果論ではあるが、SC相模原にとっては恵みの雨となった。
「辻尾のフリーキックはグラウンドがスリッピーなので、インフロントにうまく乗ったのかなと。トロに関しても、涼しかったのでフィジカル的に楽だったところはあると思います」(西ヶ谷監督)
延期になった試合でも、チームを応援するためにスタジアムに足を運んだファンやサポーターがいた。ボランティアスタッフはずぶ濡れになりながら試合ができる環境を整えていた。そんなSC相模原を支える人たちに、天気の神様がプレゼントしてくれたんじゃないか--。喜びに溢れたスタジアムの中で、そんなことを思った。
取材・文 北健一郎(SC相模原オフィシャルライター)